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DATE/ 2025.10.17

万博って何のためにやるの?

万博は世界が描く「未来の鏡」

 2025年4月13日、大阪の夢洲で「大阪・関西万博」がはじまりました。半年間にわたって世界中の人や技術が集い、人類の未来をともに考える一大イベントです。しかし、「万博って結局なんなのかわからないし、自分には関係ない」と思ってしまう方も少なくないかもしれませんね。そこで今回は、万博の歴史的な意義や社会との関わりの変化をたどりながら、万博の意味を改めて見ていきましょう。

 まず、そもそも万博とはなんでしょうか。外務省の定義によると、万博(国際博覧会)は「人類の文明や科学技術の進歩を示し、国際的な交流を深めることを目的とした場」とされています。単なる展示会ではなく、国際交流の場でもあるのですね。

 大阪での万博は1970年にも開催されており、このときは日本が世界に向けて高度成長の成果を示したイベントとなりました。当時の最先端技術や未来都市のイメージ展示に世界中の人々が驚き、「未来はここにある」と感じたのです。しかしその後、世界では科学の発展による環境破壊が問題視されるようになり、このことから2005年の愛・地球博では環境の保護や持続可能性がテーマとなりました。単なる科学技術の発展から、「地球との共生」を考えるステージに進んだのです。つまり、万博はその時代ごとに「未来のかたち」を映し出す鏡のような存在なのです。

 そして、現代の万博における「未来」はもはや遠くのものではなく、「現在の生活とつながっているもの」という意識が強くなっています。大阪・関西万博でも、キャッシュレス決済、マルチ言語翻訳、生体認証などが会場のシステムとして組み込まれており、イベント全体が“未来社会の試験場”といえるようなつくりになっているのです。

万博が日常に浸透する「ミャクミャク効果」

 さらに、万博を「ただの展示」以上の存在に押し上げているのが、公式キャラクター・ミャクミャクの存在です。ミャクミャクは細胞をイメージした赤い輪のような頭と、水をイメージした青い体を持つ不思議な生き物。発表当初は「気味が悪い」などのネガティブな反応も多かったのですが、この「キモかわいさ」が次第に受け入れられ、いざ万博が始まると写真撮影に行列ができるほどの人気者になりました。ミャクミャクは会場内でのグッズとしてはもちろん、会場外でも街中の広告や、電車・飛行機のラッピング、さらにはSNS上でのファンアートなどになっており、万博会場を飛び出して人々の日常に浸透しています。

 ミャクミャクがもたらす効果には、次のようなものが上げられます。

・親近感:「変だけどかわいい」という独特の存在感が、万博のフォーマル感や重厚感をやわらげてくれます。このため万博に親近感がわいて、多くの人が「自分にも関係あるイベント」と感じるようになります。

・拡散力:会場内にとどまらない広告やコラボ展開により、いろいろな媒体にミャクミャクが登場します。この結果、関西以外の地域にまで万博の認知が広がります。親しみやすいキャラクターは、SNSでの拡散力にも優れています。

・文化的波及:SNSでのファンアートなどで「共感」が集まります。キャラクターが媒介となって、人々の心をつなぐ役割を果たしているといえます。

 もちろん、キャラクターグッズの売り上げによる経済効果も考えられます。ミャクミャクは万博と社会を結びつける鍵のひとつとなっているのです。

未来に誇れるレガシーになれるか

 大阪・関西万博の経済効果は約3兆円という試算もあり、建設、観光、雇用などに好影響を与えるとされています。宿泊施設や飲食店への波及効果もあり、会場周辺地域を潤す効果は間違いなくあるでしょう。

 しかし同時に、建設費の膨張や終了後の施設活用などの課題を指摘されていることも確かです。特に万博会場がある夢洲をはじめ、咲洲と舞洲を加えた南港地域の3島はかつて大阪新都心計画や五輪招致に失敗し、「負の遺産」と呼ばれてきたいわくつきの土地。華やかな経済効果だけではなく、「残せるもの」にも厳しい目が向けられているのです。

 持続可能な社会の実現が求められる現代において、万博は単なる「未来の見本市」ではなく、「よりよい未来をつくる場」へと役割を変えています。そんな時代の中で大阪・関西万博は未来に誇れる「正の遺産」になれるのか。終了後も存在意義を問われ続けるでしょう。

 時代ごとにテーマを変えながら、常に「未来」を描いてきた万博。現在、その最先端にいる大阪・関西万博が何を残してくれるのか、しっかり見届けたいですね。

<参考サイト>
万国博覧会とは?|外務省
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/hakurankai/banpaku.html
大阪・関西万博とは?日本への経済効果と影響を解説| Money Canvas
https://moneycanvas.bk.mufg.jp/know/column/fHBQViZWt6uo1xJ/
ミャクミャク、なぜ人気?心理学者ら分析…「気持ち悪い」から一転「本当は優しいヤツ」との声も|読売新聞オンライン 
https://www.yomiuri.co.jp/expo2025/20250719-OYT1T50064/
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