社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
混迷の時代を生き抜くための「知の体力」
現代は「VUCA(ブーカ)の時代」と言われます。VUCA(ブーカ)とは、Volatility(変動性・不安定さ)、Uncertainty(不確実性・不確定さ)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性・不明確さ)の頭文字をつなげた言葉で、混迷する現代社会を言い表すキーワードとして、近年よく言われるようになりました。
不安定で、不確実で、複雑で、あいまい。そんな答えのない時代をどう生き抜くか。そのために必要なのは「知の体力」なのだと、細胞生物学者にして歌人というユニークなキャリアをもつ大学教授、永田和宏先生は説きます。今回はそんな永田先生の「知の鍛錬法」の一端をご紹介しましょう。
永田先生がまず指摘するのは、「問題に答えがあるとは限らない」ということです。たとえば、沖縄基地問題、原発問題、少子高齢化問題。世界に出れば、宗教問題、難民問題、民族問題などなど。答えのない問題は山積しています。ところが、高校までの試験の「問題」には、その多くは、正しい答えが、しかもひとつだけあるということになっています。考えてみるとこれは怖いことではないか、というのです。どこかに正解があって、その正解を誰か賢い人や偉い人が知っている。そんな呪縛にとらわれたまま、大学を出て社会人になる人ばかりが増えるとすると、一体世の中はどうなるのでしょう。
答えのない問題がひしめく現実の社会は、定石では太刀打ちできません。そこで生き抜くためには、想定外の問題について自分なりに対処するための知力が求められます。このときに大事なのは、「自分で考える」ことです。そのためには、相手に伝わるよう懇切丁寧に説明すること、能動的に聞くこと、そして、質問する力が大切だと永田先生は言います。
学生の「考える力」を鍛えるために、永田先生は大学の講義でわざとウソをつくことがあるそうです。そして講義の終わり近くに「さて、今日私が話した内容には、ウソがひとつあります。次回までに、どこが間違っていたか考えてください」などと言うのだとか。もちろん学生は驚きます。授業で先生がわざと間違ったことを教えるなんて…。自分で考える力を身につけてほしい、言われたことを鵜呑みにしないで自分の頭で考えてほしいという永田先生の深い親心がわかるのは、きっと卒業後何年も、あるいは何十年もしてからになるのでしょう。
そしてまた、「こんなに素晴らしい思想を、知を、わずか600円ほどの金を出すだけで分けていただいてしまっていいのだろうか」と思うとも言います。そんな貴重な先達の知の結晶を、惜しげもなく分けてもらっている。そういう知への敬意を「私たちはこの流通経済の中で置き忘れているのではないか」と警鐘を鳴らしもします。
「通称湯川記念館と呼んでいた基礎物理学研究所のサロンのような教室で、物理学通論という講義を毎週1コマ、一年間受けることになった。午後の1時間半。湯川先生にとってもほとんど孫に近い学生たちである。定年前ということもあって、いかにもリラックスして楽しそうに話をされていたのを覚えている」
この贅沢で貴重な経験は、その後、50年をこえる永田先生の研究者人生を支えてくれているそうです。そんな一生の「先生」に出会える人生は幸せですね。
ただ、面白さをとる方が、きっと大変で、トラブルがあったり、失敗もしたりするでしょう。「でも、最初から安全な方を選んで何かが変わる可能性は極めて低い。いったんは自分の可能性にチャレンジしてみてはどうか」と、若者に限らず、あらゆる挑戦したい人の背中を押してくれています。
不安定で、不確実で、複雑で、あいまい。そんな答えのない時代をどう生き抜くか。そのために必要なのは「知の体力」なのだと、細胞生物学者にして歌人というユニークなキャリアをもつ大学教授、永田和宏先生は説きます。今回はそんな永田先生の「知の鍛錬法」の一端をご紹介しましょう。
新聞連載が本になった
「知の体力」は永田先生の造語です。大学での教員人生を通して多くの若者を勇気づけてきた永田先生は、その名も『知の体力』(新潮新書)という本を出版しています。この本は、京都新聞での永田先生の連載「一歩先のあなたへ」を元にしつつ、大幅に改稿して約三倍になるほど加筆されたもの。新聞連載は若者へのメッセージとして書かれたものでしたが、道しるべを求める大人の愛読者も多かったようで、2018年5月に上梓され、10月時点ですでに増刷4刷という好評の一冊です。永田先生がまず指摘するのは、「問題に答えがあるとは限らない」ということです。たとえば、沖縄基地問題、原発問題、少子高齢化問題。世界に出れば、宗教問題、難民問題、民族問題などなど。答えのない問題は山積しています。ところが、高校までの試験の「問題」には、その多くは、正しい答えが、しかもひとつだけあるということになっています。考えてみるとこれは怖いことではないか、というのです。どこかに正解があって、その正解を誰か賢い人や偉い人が知っている。そんな呪縛にとらわれたまま、大学を出て社会人になる人ばかりが増えるとすると、一体世の中はどうなるのでしょう。
答えのない問題がひしめく現実の社会は、定石では太刀打ちできません。そこで生き抜くためには、想定外の問題について自分なりに対処するための知力が求められます。このときに大事なのは、「自分で考える」ことです。そのためには、相手に伝わるよう懇切丁寧に説明すること、能動的に聞くこと、そして、質問する力が大切だと永田先生は言います。
学生の「考える力」を鍛えるために、永田先生は大学の講義でわざとウソをつくことがあるそうです。そして講義の終わり近くに「さて、今日私が話した内容には、ウソがひとつあります。次回までに、どこが間違っていたか考えてください」などと言うのだとか。もちろん学生は驚きます。授業で先生がわざと間違ったことを教えるなんて…。自分で考える力を身につけてほしい、言われたことを鵜呑みにしないで自分の頭で考えてほしいという永田先生の深い親心がわかるのは、きっと卒業後何年も、あるいは何十年もしてからになるのでしょう。
読書で「知の体力」を鍛える
こんなホットでチャーミングな先生に学べる大学生は幸せですが、すでに大学を卒業し、社会人になっている大人たちはどのようにして「知の体力」を鍛えればいいのでしょうか。そのとき強い味方になるのが読書です。読書は、知らない世界を見せてくれます。他者の考えに触れることができます。そして、科学的な思考の方法を教えてもくれます。永田先生は自分のバイブルとも言える一冊として『時間と自己』(木村敏著)を挙げ、何度読んでも新しい発見があり、得るものは尽きないと書いています。そしてまた、「こんなに素晴らしい思想を、知を、わずか600円ほどの金を出すだけで分けていただいてしまっていいのだろうか」と思うとも言います。そんな貴重な先達の知の結晶を、惜しげもなく分けてもらっている。そういう知への敬意を「私たちはこの流通経済の中で置き忘れているのではないか」と警鐘を鳴らしもします。
「憧れの人」をもつ
もうひとつの素敵な方法として、永田先生は「人に憧れる」ことの素晴らしさを説いています。永田先生は、ノーベル賞を受賞した物理学者の湯川秀樹先生に憧れて京都大学理学部の物理学科に入りました。さいわい湯川先生の退官前の最後の授業に間に合ったそうで、当時を振り返るエピソードを同著で紹介しています。「通称湯川記念館と呼んでいた基礎物理学研究所のサロンのような教室で、物理学通論という講義を毎週1コマ、一年間受けることになった。午後の1時間半。湯川先生にとってもほとんど孫に近い学生たちである。定年前ということもあって、いかにもリラックスして楽しそうに話をされていたのを覚えている」
この贅沢で貴重な経験は、その後、50年をこえる永田先生の研究者人生を支えてくれているそうです。そんな一生の「先生」に出会える人生は幸せですね。
自分の可能性に挑戦したいすべての人へ
学ぶことで可能性を広げる。その時に自分の可能性を自分で摘み取らないこと。「自分はしょせんこの程度」と自分を限らないこと。安全をとるか、面白さをとるか、どちらを選ぶかは、特に進路選択に関わる場合は、その後の人生をどうやり過ごすのかに直結する問題となります。ただ、面白さをとる方が、きっと大変で、トラブルがあったり、失敗もしたりするでしょう。「でも、最初から安全な方を選んで何かが変わる可能性は極めて低い。いったんは自分の可能性にチャレンジしてみてはどうか」と、若者に限らず、あらゆる挑戦したい人の背中を押してくれています。
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
「学ぶことが楽しい」方には 『テンミニッツTV』 がオススメです。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。
『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(1)「スキーマ」問題と認知の仕組み
なぜ「何回説明しても伝わらない」という現象は起こるのか。対人コミュニケーションにおいて誰もが経験する理解や認識の行き違いだが、私たちは同じ言語を使っているのになぜすれ違うのか。この謎について、ベストセラー『「何...
収録日:2025/05/12
追加日:2025/11/02
「境地は裏切らない」とは?禅の体験から見えてきたもの
徳と仏教の人生論(6)物事の本質を見極めるために
10年の修行で自我を手放し宇宙と一体化する境地に達すると、自分中心からホリスティックな視点に変わり、物事の表と裏の共通点が見えてきて、その本質がつかめるという田口氏。人生は常に新たな命題を解き明かし続ける旅である...
収録日:2025/05/21
追加日:2025/11/08
「白人vsユダヤ人」という未解決問題とトランプ政権の行方
戦争と暗殺~米国内戦の予兆と構造転換(3)未解決のユダヤ問題
保守的な軍国化によって、内戦への機運が高まっているアメリカだが、MAGAと極左という対立図式は表面的なものにすぎない。その根本に横たわっているのは白人とユダヤ人という人種の対立であり、それはカーク暗殺事件によって露...
収録日:2025/09/24
追加日:2025/11/06
人間とAIの本質的な違いは?記号接地から迫る理解の本質
学力喪失の危機~言語習得と理解の本質(5)AIに記号接地は可能か
昨今、めざましい発展を遂げているAI技術。流暢にチャットをやりとりする生成AIはしかし、本当の意味で使っている言葉を理解することができるのだろうか。言語学習の根本にある「記号接地」問題から、人間とAIの本質的な違いに...
収録日:2025/05/12
追加日:2025/10/14
ソニー流「人材の活かし方」「多角化経営の秘密」を学ぶ
編集部ラジオ2025(26)ソニー流!多角化経営と人材論
「人的資本経営」という言葉が、よく聞かれるようになりました。端的にいえば、「人材=コスト」ではなく「人材=資本」として捉え、人を大切にしていこうという考え方です。
「人を大切にする」というのは別に新しい...
「人を大切にする」というのは別に新しい...
収録日:2025/09/29
追加日:2025/11/06


