テンミニッツ・アカデミー|有識者による1話10分のオンライン講義
会員登録 テンミニッツ・アカデミーとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2019.03.17

世界で「外国人訪問者」が最も多い都市はどこ?

 国際市場調査を行っているユーロモニターインターナショナルが各国主要都市の2017年の外国人訪問者数を統計した「外国人訪問者数 世界TOP100都市(2018年版)」を発表しました。それによると、訪問者数のトップ3は香港、バンコク、ロンドンとなり、日本の都市からは東京、大阪、京都、千葉の4都市がランクインしました。

アジアの都市が引き続き人気

 旅行業界コンサルタントのヴォウター・ギアーツ氏がまとめた今回の調査レポートによると、2012年からアジアの都市の伸び率が順調に上昇しており、100都市中41都市がアジアの都市がランクインしていたとのことです。

 外国人訪問者数ランキングトップ10は以下の通り。香港、バンコク、シンガポール、マカオ、クアラルンプール、深センと、アジアの都市が半数以上を占めています。

1位 香港(香港、中国)
2位 バンコク(タイ)
3位 ロンドン(イギリス)
4位 シンガポール(シンガポール)
5位 マカオ(マカオ、中国)
6位 パリ(フランス)
7位 ドバイ(UAE)
8位 ニューヨーク(アメリカ)
9位 クアラルンプール(マレーシア)
10位 深セン(中国)最先端都市

※最低24時間以上12ヶ月未満の滞在の旅行客が対象。訪問目的は問わない
※各訪問者は個別にカウントするため、延べ人数となる
※自国の訪問、日帰り、乗り継ぎ、クルーズ船客、避難民は除く
※ビーチ・スキーリゾート地は基本的に除外

中国人訪問者の急増―上位にランクインした都市の特徴

 2位のバンコクでは2つの主要空港の拡張化が急がれているほか、4位のシンガポール、24位のソウルの空港でも新ターミナルを増設に向けて準備が進められています。いずれも中国本土からの訪問客増加を受けてのことです。アジアの都市にとって、中国訪問者の誘致が最優先課題となっているとギアーツ氏は指摘しています。

 実際にランキング1位となった香港では、外国人訪問者全体の50%以上が中国本土からの訪問客でした。これは港珠澳大橋や広深港高速鉄道を敷き、中国から香港までのアクセスを強化した結果だと考えられています。

 1~10位の都市で、2012~2017年までの年間平均増加率が最も高かったのがパリの13.7%です。パリは2015年11月に起きたテロの影響で客足が鈍ったものの、順調な経済成長に加え、政府や周辺地域と協力・連携した取り組みによって改善されたと見られています。

 惜しくもトップ10入りは逃したものの2ケタ以上の伸び率を示し、今後も高い成長がのぞめる都市がいくつか見られます。中でも際立つのがインドとインドネシアです。ランキングトップ10の都市の伸び率は平均3.9%であるのに対し、インド・インドネシアの都市ではいずれも30~50%以上を示しています。

 特にインドの首都デリーは40ランク上昇し、今回の調査で13位につけています。急増した理由としては、デリーを拠点にアーグラやマトゥラーなど近郊の観光地や、ハリドワールなど宗教色の強い土地の観光を目的とした人が増えたからと考えられています。その国の土地柄や歴史に触れ、未知の体験をしたいと思う旅人が増えたのかもしれません。

大阪がランクインした理由

 インドと並び、ギアーツ氏が注目している国が日本です。近年のインバウンド事業が功を奏し、今回の調査では東京が14位、大阪が30位、京都67位、千葉90位となりました。特に大阪は2012年からランクが113もジャンプアップするという大躍進ぶりを見せ、ギアーツ氏も「注目すべき4都市」として大阪を挙げています。

 大阪のこの高い伸び率は、やはり中国人訪問者数の急増が影響したと見られています。今後は東京オリンピックや大阪万博の恩恵を受け、さらなる飛躍が期待できるでしょう。

観光国として成長を続けるために

 日本に来る訪問客の多くは中国人を占めています。ただし先ごろ流行していた「爆買い」はなりを潜め、日本食や観光など「体験」を求めて来る人が増えていると考えられています。
では日本は観光国として、今後どう取り組むでしょうか。

 香港は夜景やショッピングを楽しむ場所としてのイメージが定着しているものの、山林や緑地が国土の70%を占めるほど緑豊かな土地です。そのため、現在は自然を満喫できるハイキング・サイクリングコースを整備し、発信しています。外国人訪問者数が急増しているインドのデリーでは大気汚染が問題視されていましたが近年は改善され「環境に優しい旅先」を目指しているほか、インフラの整備と無料Wi-Fiの拡充などネット接続の強化に注力しています。

 また、ロンドン、ニューヨークのような先進国の都市では、観光客の激増から宿泊施設が不足するなど、キャパシティの限界が問題となっています。民泊などのシェアエコノミーの展開が注目されるいっぽう、こうしたレンタル物件の急増によって国内の住宅供給が滞るという弊害にも悩まされているようです。

 ギアーツ氏は、自然の魅力が観光都市としての成長に大きく寄与するという認識が高まっていること、そして各都市の観光局は将来的に旅行者の「適性な」誘致を目指すことが重要だと指摘しています。

 ただやみくもに観光客を増やそうとしても、受けいれる体制が整っていなければ意味がありません。日本が観光国として成長し続けるためにも、こうした各国の問題や取り組みは参考にするべきでしょう。

<参考サイト>
・外国人訪問者数 世界TOP100都市 2018版(ユーロモニターインターナショナル)
https://go.euromonitor.com/white-paper-travel-2018-top100cities_jp.html
・外国人訪問者数が多い世界都市ランキング2018、総合1位は「香港」、日本は東京・大阪・京都・千葉が100位圏内に(トラベルボイス)
https://www.travelvoice.jp/20181204-122221
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
“社会人学習”できていますか? 『テンミニッツTV』 なら手軽に始められます。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,500本以上。 『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

各々の地でそれぞれ勝手に…森林率が高い島国・日本の特徴

各々の地でそれぞれ勝手に…森林率が高い島国・日本の特徴

「集権と分権」から考える日本の核心(5)島国という地理的条件と高い森林率

日本の政治史を見る上で地理的条件は外せない。「島国」という、外圧から離れて安心をもたらす環境と、「山がち」という大きな権力が生まれにくく拡張しにくい風土である。特に日本の国土は韓国やバルカン半島よりも高い割合の...
収録日:2025/06/14
追加日:2025/09/15
片山杜秀
慶應義塾大学法学部教授 音楽評論家
2

外政家・原敬とは違う…職業外交官・幣原喜重郎の評価は?

外政家・原敬とは違う…職業外交官・幣原喜重郎の評価は?

外交とは何か~不戦不敗の要諦を問う(2)外交と軍事のバランス

国際関係においては外交と軍事(内政)のバランスが重要となる。著書では、近代日本において、それらのバランスが崩れていった過程を3つのステージに分けて解説しているが、今回はその中の、国のトップが外政家・原敬から職業外...
収録日:2025/04/15
追加日:2025/09/12
小原雅博
東京大学名誉教授
3

フーリエ解析、三角関数…数学を使えば音の原材料が分かる

フーリエ解析、三角関数…数学を使えば音の原材料が分かる

数学と音楽の不思議な関係(3)音と三角関数とフーリエ級数

音が波であることは分かっても、それが三角関数で支えられていると言われてもピンとこないという方は少なくないだろう。そこで、その話を補足するのが倍音や周波数という概念であり、そのことを目で確認できるとっておきのイメ...
収録日:2025/04/16
追加日:2025/09/11
中島さち子
ジャズピアニスト 数学研究者 STEAM 教育者 メディアアーティスト
4

成長を促す「3つの経験」とは?経験学習の基本を学ぶ

成長を促す「3つの経験」とは?経験学習の基本を学ぶ

経験学習を促すリーダーシップ(1)経験学習の基本

組織のまとめ役として、どのように接すれば部下やメンバーの成長をサポートできるか。多くの人が直面するその課題に対して、「経験学習」に着目したアプローチが有効だと松尾氏はいう。では経験学習とは何か。個人、そして集団...
収録日:2025/06/27
追加日:2025/09/10
松尾睦
青山学院大学 経営学部経営学科 教授
5

狩猟採集生活の知恵を生かせ!共同保育実現に向けた動き

狩猟採集生活の知恵を生かせ!共同保育実現に向けた動き

ヒトは共同保育~生物学から考える子育て(3)共同保育を現代社会に取り戻す

ヒトは、そもそもの生き方であった狩猟採集生活でも子育てを分担してきた。それは農業社会においても大きくは変わらなかったが、しかし産業革命以降、都市化が進み、貨幣経済と核家族化と個人主義が浸透した。ヒトが従来行って...
収録日:2025/03/17
追加日:2025/09/14
長谷川眞理子
日本芸術文化振興会理事長 元総合研究大学院大学長