社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2019.07.08

車を持ってることがステータスなのは過去の話?

 かつて車は男性のステータスだった時代がありました。スーパーカーブームという言葉を聞いて懐かしく感じる方もいるでしょう。テレビでも特に警察モノのドラマでは、いつもかっこいい車が登場していました。ここ数年、「若者の車離れ」ということが言われてきました。実際に若者は車離れしているのでしょうか。また、かっこいい車に乗っていることは、もうステータスではないのでしょうか。

新成人のマイカー所有率は増えている

 ソニー損保は毎年、「新成人のカーライフ意識調査」を発表しています(インターネットリサーチ、有効回答数1000件)。まず、2015年の資料に示されている2010年からの推移を見てみます。2010年時点での新成人におけるマイカー所有率は12.4%(都市部5.3%、地方14.5%)、2015年は12.9%(都市部4.7%、地方15.1%)で大きな変化はありません。また、2016年のデータを見てもおおよそ同様です。しかし翌年以降、変化が起きています。

 2017年は16.8%(都市部10.4%、地方19.0%)、2018年16.7%(都市部8.9%、地方19.7%)、2019年16.7%(都市部8.0%、地方19.2%)という結果に。2017年(調査は2016年11月)以降、新成人のマイカー所有率は増えています。単純に車を所有しなくなっているということはなさそうです。つまり、若者の車離れは、所有数からは立証できません。

 では、同調査にある「20歳のうちに購入したいクルマ」を見てみましょう。トップはトヨタアクア、2位は日産ノート、3位はフォルクスワーゲン(Golf/Poloなど)、以下、4位日産キューブ、5位プリウスという結果です。実に堅実な車選びという感じがします。

 こう見てみると、車の所有率は上がっていますが、車をステータスとして捉えているかと言うとそうでもないことがわかります。つまり、「若者の車離れ」とは「車をステータスとして捉えることからの離脱」と考えていいでしょう。ただし、6位にはレクサス、8位にBMWといった高級車もランクインしているので、車から完全にステータス性が消えているとはいい切れません。

実用的な車を「残価設定型クレジット」で買う

 一方、中国のメディア「快資迅」は、日本を訪れる中国人観光客が、「街中を走る高級車の少なさ」について、「日本人はお金があっても高級車に乗らないのはなぜか」という疑問に答える記事を掲載しているそうです。その回答としては「日本の道路が狭いこと」、「公共交通機関が発達していること」、「日本人は目立つことを好まないため」と考察されています。

 確かにそうかも、と思わせられる部分もあります。現在の日本で売れている車は日産ノートやトヨタアクア、プリウスといったいわゆる燃費がよく実用性の高い車です。このあたりは先に挙げた「20歳のうちに購入したいクルマ」と重なっている車種も多いですが、実際にこれらは故障も少なく、燃費の良さは過去とは雲泥の差です。

 一方、故障が少なく、燃費がよく、また安全性能も高く、となってくると当然新車の価格は上がります。この点に関しては、自動車販売店が「残価設定型クレジット」と呼ばれる、将来の買い取り費用をあらかじめ引いた分を支払う方法で対応しています。この方法であれば、月々数千円という支払いで車を所有することも可能です。もしかしたら、このあたりが昨今また若者が車を買い始めた理由とも関連しているかも知れません。

 つまり、現代の若者は単純に車のステータス性によって購入を検討するのではなく、むしろ合理的で快適な移動ツールとして車を利用していると言えます。またここでの「若者の車離れ」とは、「車をステータスとしてみることからの離脱」であり、車そのものを拒否しているわけではないということが分かります。買い方に無理がないよう、毎月の支払いが安く済む方法であれば車を買うという選択を行っています。こう考えると、現代の若者は賢くしたたかな一面があると言えるのではないでしょうか。

<参考サイト>
・ソニー損保、「2019年 新成人のカーライフ意識調査」|ソニー損保
https://from.sonysonpo.co.jp/topics/pr/2019/01/20190107_01.html
・ソニー損保、「2015年 新成人のカーライフ意識調査」|ソニー損保
https://from.sonysonpo.co.jp/topics/pr/2015/01/20150106_01.html
・なぜ日本人は高級車に乗って、誇示しようとしないのか=中国メディア
http://news.searchina.net/id/1677150?page=1
・若者の“クルマ離れ”は本当か 保有率が増加|ITビジネスONLINE
https://www.itmedia.co.jp/business/articles/1901/10/news015.html
・『若者はなぜモノを買わないのか』(堀好伸著、青春新書)
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
雑学から一段上の「大人の教養」はいかがですか?
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

「武器商人」となったアメリカ…ディール至上主義は失敗!?

「武器商人」となったアメリカ…ディール至上主義は失敗!?

戦争とディール~米露外交とロシア・ウクライナ戦争の行方

2025年8月、米露、米ウクライナ、EUの首脳会談が相次いで実現した。その成果だが、中でもロシアにとって大成功と呼べるものになった。ディール至上主義のトランプ政権を手玉に取ったロシアが狙う「ベルト要塞」とは何か。事実上...
収録日:2025/09/24
追加日:2025/12/21
東秀敏
米国大統領制兼議会制研究所(CSPC)上級フェロー
2

カント『永遠平和のために』…国連やEUの起源とされる理由

カント『永遠平和のために』…国連やEUの起源とされる理由

平和の追求~哲学者たちの構想(5)カント『永遠平和のために』

平和のための「国家連合」。このアイデアの源はサン=ピエールなのだが、現在ではカントの著作『永遠平和のために』が起源だともてはやされることが多い。その理由としては、「なぜ国家連合が必要なのか」「そもそもなぜ平和が...
収録日:2025/08/02
追加日:2025/12/22
川出良枝
東京大学名誉教授 放送大学教養学部教授
3

豊臣兄弟の謎…明らかになった秀吉政権での秀長の役割

豊臣兄弟の謎…明らかになった秀吉政権での秀長の役割

豊臣兄弟~秀吉と秀長の実像に迫る(1)史実としての豊臣兄弟と秀長の役割

豊臣と羽柴…二つの名前で語られる秀吉と秀長だが、その違いは何なのか。また、これまで秀長には秀吉の「補佐役」というイメージがあったが、史実ではどうなのか。実はこれまで伝えられてきた羽柴(豊臣)兄弟のエピソードにはか...
収録日:2025/10/20
追加日:2025/12/18
黒田基樹
駿河台大学法学部教授 日本史学博士
4

逆境に対峙する哲学カフェ…西洋哲学×東洋哲学で問う矛盾

逆境に対峙する哲学カフェ…西洋哲学×東洋哲学で問う矛盾

逆境に対峙する哲学(1)日常性が「破れ」て思考が始まる

「逆境とは何に逆らうことなのか」「人はそもそも逆境でしか思考しないのではないか」――哲学者鼎談のテーマは「逆境に対峙する哲学」だったが、冒頭からまさに根源的な問いが続いていく。ヨーロッパ近世、ヨーロッパ現代、日本...
収録日:2025/07/24
追加日:2025/12/19
5

生成AIの利活用に格差…世界の導入事情と日本の現状

生成AIの利活用に格差…世界の導入事情と日本の現状

生成AI「Round 2」への向き合い方(1)生成AI導入の現在地

日進月歩の進化を遂げている生成AIは、私たちの生活や仕事の欠かせないパートナーになりつつある。企業における生成AI技術の利用に焦点をあてる今シリーズ。まずは世界的な生成AIの導入事情から、日本の現在地を確認しよう。(...
収録日:2024/11/05
追加日:2024/12/24
渡辺宣彦
コグニザントジャパン株式会社代表取締役社長CEO