テンミニッツ・アカデミー|有識者による1話10分のオンライン講義
会員登録 テンミニッツ・アカデミーとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2024.11.24

なぜ映画館では「ポップコーン」を食べるのか?

コロナ禍の最中は動画配信サイトにお世話になっていた人も、久しぶりに大きなスクリーンの前でポップコーンをつまみながら映画を観たい方も多いのではないでしょうか。

 ところで《映画館といえばポップコーン》という定番スタイルはいつ頃始まったのか、また、何故ポップコーンなのかは御存知ですか? 定番化したのにはやはり深い理由があったのです。今回はそんな映画館のおやつ事情をリポートします。

ポップコーン事始め

 機械にお金を入れるとザーッと紙容器にいっぱいになるものから、カウンターで注文するキャラメルソースやチョコレートなどでコーティングされたリッチなものまで、ついつい頼んでしまう映画のお供……その始まりはやはり映画大国アメリカです。

 ご存知の通り、映画の初期はスクリーンに映像だけが映る無声映画です。音をつける技術がなかったため、映像の合間に説明文を差し挟み、BGMは生演奏、その頃は上映中の食事は耳障りであるとポップコーン含め敬遠されていました。

1927年、映像に音声のついたトーキーが現れます。これならば上映中に何かつまんでいても大丈夫だろうと、その他のスナック菓子より食べる音も小さいポップコーンが売られるようになっていきます。ポップコーンを売っているかいないかで同じ映画をかけていても売り上げがかなり違ったそうですから、さぞや人気があったのでしょう。

ポップコーンが定番化していくまさかの理由

 しかし、いろんな食べ物がある中で何故ポップコーンが定番化していくのでしょう? 

 1つには原材料の安さと、誰にでも作れて難しい技術がいらないという点があります。トーキーが始まった時代は世界恐慌と重なることもあり、あらゆるものがインフレする中の数少ない手軽に楽しめるおやつがポップコーンだったのです。

 また、もう1つの理由はポップコーンのお手軽さ、もとい、軽さにあったようです。
 高い入場券を買ってわざわざ時間を作ってやってきたのに、映画の内容がイマイチというか、かなりひどかった……誰しもそんな経験があると思います。今ならば映画批評サイトやSNSに感想を述べるのでしょうが、当時のアメリカはもっと直接的でした。
 なんと、手元のポップコーンをスクリーンに向けて投げつけたのです。軽くて手の中にたくさんおさまるし、スクリーンだけでなく間違って人に当たっても傷つかないということで定番化したのだとか……ポップコーンの紙吹雪……今やったらそれこそSNSで迷惑客だと拡散炎上してしまいそうですね。

映画館の大事な収入源

 そんなポップコーンが日本に入ってきたのは第二次世界大戦の後、アメリカ兵によって伝えられ、1957年マイクコーンという会社が製造販売を始めています。そう考えると日本でもすでに70年近く映画のお供として愛され続けているんですね。映画のチケットの売上げの割合は7~8割は配給会社側に行くので、劇場の存続はパンフレットやポップコーンの売上げにかかっているという切実な事情も定番化の一因です。

 そんなポップコーンでさえ、一部にやはり咀嚼音やカサカサやる音が気になるという声もあげられています。音や匂いは個人で防げるものではなく大変難しい問題です。けれども、その他の多くの食べ物が映画館で販売されておらず、持ち込みも禁止されているのが多いのには他にも理由があります。

 アイスクリームなどはこぼれてしまうと掃除が非常に大変になります。また、唐揚げやハンバーガー、ポテトなどは咀嚼音、においがポップコーンの比ではなく、なおクレーム・トラブルのもとになってしまうそうです。また、おにぎりなども賞味期限がすぐに切れてしまうということもあり、現状ではポップコーンにかわる食べ物は出てこなさそうです。

 昨今ようやく全席販売のできるようになった映画館、劇場ですが、コロナ対策で客席での飲食不可のところも多く、大ヒット映画でさえ映画館の救済にはならないという見方もあります。ポップコーンをつまみながら映画鑑賞のできる日々が戻ってくることを願ってやみません。
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
物知りもいいけど知的な教養人も“あり”だと思います。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,500本以上。 『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

世界で最もクリエイティブな国は? STEAM教育が広がる理由

世界で最もクリエイティブな国は? STEAM教育が広がる理由

数学と音楽の不思議な関係(4)STEAM教育でつくる喜びを全ての人に

世界では「創造性がどれくらい大事か」という問題意識が今、急激に高まっている。創造性とは全ての人にあり、偏差値などでは絶対に計れない、まさに無限軸の創造性のこと。そうした創造性を育む学びが「STEAM教育」である。最終...
収録日:2025/04/16
追加日:2025/09/18
中島さち子
ジャズピアニスト 数学研究者 STEAM 教育者 メディアアーティスト
2

なぜ日本の所得水準は低いのに預金残高は大きいのか

なぜ日本の所得水準は低いのに預金残高は大きいのか

続・日本人の「所得の謎」徹底分析(2)政府債務と預金残高の背景

国際的に見て、政府の債務残高が大きい日本。その背景には、バブル崩壊後の財政赤字を取り戻せていないことがあった。その一方で、預金残高も高い日本。所得が低いのに預金が多い日本の謎を解説する。(全4話中第2話)
※...
収録日:2025/07/10
追加日:2025/09/17
養田功一郎
元三井住友DSアセットマネジメント執行役員 YODA LAB代表 金融・経済・歴史研究者
3

米長邦雄のアンラーニング、弟子の弟子になってV字成長

米長邦雄のアンラーニング、弟子の弟子になってV字成長

経験学習を促すリーダーシップ(2)経験から学ぶ力

人が成長していくために重要な経験学習。その学習サイクルを適切に回していくためには、「経験から学ぶ力」が必要になる。ではそこにはどのような要素があるのか。ストレッチ、リフレクション、エンジョイメントという3要素と、...
収録日:2025/06/27
追加日:2025/09/17
松尾睦
青山学院大学 経営学部経営学科 教授
4

各々の地でそれぞれ勝手に…森林率が高い島国・日本の特徴

各々の地でそれぞれ勝手に…森林率が高い島国・日本の特徴

「集権と分権」から考える日本の核心(5)島国という地理的条件と高い森林率

日本の政治史を見る上で地理的条件は外せない。「島国」という、外圧から離れて安心をもたらす環境と、「山がち」という大きな権力が生まれにくく拡張しにくい風土である。特に日本の国土は韓国やバルカン半島よりも高い割合の...
収録日:2025/06/14
追加日:2025/09/15
片山杜秀
慶應義塾大学法学部教授 音楽評論家
5

外交とは何か…いかに軍事・内政と連動し国益を最大化するか

外交とは何か…いかに軍事・内政と連動し国益を最大化するか

外交とは何か~不戦不敗の要諦を問う(1)著書『外交とは何か』に込めた思い

外交とは国益を最大化しなければいけないのだが……。35年にもわたる外交官経験を持つ小原氏が8年がかりで書き上げた著書『外交とは何か 不戦不敗の要諦』(中公新書)。小原氏曰く、外交とは「つかみどころのないほど裾野が広い...
収録日:2025/04/15
追加日:2025/09/05
小原雅博
東京大学名誉教授