社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
人工衛星の墓場「ポイント・ネモ」とは
これまでに8000機以上が打ち上げられている人工衛星
旧ソビエト連邦が、世界ではじめての人工衛星「スプートニク1号」を打ち上げてから、60年以上が経ちました。宇宙開発史がスタートし現代に至るまで、約8000という数の人工衛星が打ち上げられています。人工衛星とは、地球の軌道上をぐるぐると回っている人工物のことで、惑星の調査をしたり宇宙の歴史を調べたりするだけでなく、気象観測や地質調査など実は地球の観測にも多く役立てられています。しかし、そうした人工衛星たちも経年劣化するため、古くなると次世代機に引き継がれることがほとんどです。では、役目を終えた人工衛星はどのような最後を迎えるのでしょうか。その多くは大気圏に突入し燃えつきる運命です。しかし、一部は燃えつきずに地球に落下してきます。その落下地点──人工衛星の墓場とも呼べる場所が、地球には存在しています。通称「ポイント・ネモ」。
この「ポイント・ネモ」とは一体どんな場所なのでしょうか。
ベルヌの小説が名前の由来となった「ポイント・ネモ」
「到達不能極」という言葉をご存じでしょうか。文字の通りに解釈すると、たどり着くことが難しい場所となりますが、定義としては「地理的に最も海から離れている陸地」もしくは「地理的に最も陸地から離れている海」という意味です。地球における「地理的に最も陸地から離れている海」は南太平洋の上にあり、ニュージーランドと南米大陸のチリとの間に存在しています。太平洋の上に点在している諸島とは、どれも2700km近くの距離があり、わざわざ船が通りかかることもなければ、もちろん人が住んでいるということもありません。この南太平洋上の「到達不能極」が、人工衛星の墓場である「ポイント・ネモ」です。
SF小説に詳しい方は、この名前にピンとくるかもしれません。19世紀の作家ジュール・ベルヌの『海底二万マイル』に登場する潜水艦ノーチラス号の船長、ネモから取られています。ネモとは、ラテン語で〝誰もいない〟という意味を持ちます。まさに、南太平洋の到達不能極は、「誰もいない」地球の空白地と言っていいでしょう。『クトゥルフ神話』の作者として知られるアメリカの作家ラヴクラフトは、人工衛星が空を飛ぶ以前に、この場所を異形の神が眠る都市〝ルルイエ〟が沈んでいるとして描いたほど。そこに、現在では大量の人工衛星の残骸が沈んでいるのです。
将来的には国際宇宙ステーションも落下予定
「ポイント・ネモ」に沈んだ人工衛星の数は、約200~300にものぼります。最も有名なものでは、旧ソ連によってつくられた世界初の宇宙ステーション「サリュート」と、その後継機である「ミール」です。とくに「ミール」は総重量120トン以上と、巨大な物体でした。そのため、大気圏再突入の際にすべて燃えつきることができず、たくさんの部品が地球に落ちたのです。その後も、「ポイント・ネモ」にはさまざまな人工衛星が落下しました。2018年4月には、中国の宇宙実験室「天宮1号」が制御不能となり、残骸の一部が「ポイント・ネモ」に落ちています。2020年代のうちには国際宇宙ステーション(ISS)もここに落とされる予定になっています。ISSの総重量はミールを遥かに超えた420トン。サッカーコート1面分ほどの巨大物を落下させるには、高い技術力が必要になります。
環境汚染の心配は……?
しかし、これだけ多くの人工衛星が落ちているとなると、海洋汚染も気になります。近年、プラスチックの海洋流出が問題になり、レジ袋が有料化されるなど、是非はともかくさまざまな取り組みがなされているのも確かです。〝誰もいない〟という「ポイント・ネモ」ですが、実際、ここに住んでいる生物は少ないようです。大陸から遥か離れた場所にあるため、生物が生きるための栄養素が少なく、多様な生物が生きて行けるような環境ではないという報告も出ています。しかし、これまで宇宙開発に未着手だった国々が次々と開発に参戦するなか、いつまでも「ポイント・ネモ」を墓場にしておくわけにもいきません。近年では、大気圏再突入の際に燃えつきるような素材の開発も進んでいます。
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
物知りもいいけど知的な教養人も“あり”だと思います。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,500本以上。
『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
叩き潰せ、正しいのは自分だけ…ロイ・コーンの教えとは
[深掘り]世界を壊すトランプ関税(1)トランプ大統領の動機と思考
トランプ政権が発表した関税政策は、世界を大きな混乱に落とし込んでいる。はたして、トランプ大統領の「動機」や「思考」の淵源とはいかなるものなのか。そして世界はどうなってしまうのか。
島田晴雄先生には、...
島田晴雄先生には、...
収録日:2025/04/15
追加日:2025/04/25
共生への道…ジョン・ロールズが説く「合理性と道理性」
危機のデモクラシー…公共哲学から考える(5)共存・共生のための理性
フェイクが含まれた情報や陰謀論が跋扈する一方、多様性が尊重されるようになり多元化する人々の価値観。そうした現代社会で、いかにして私たちはともに公共性を保って生きていけるのか。多様でありながらいかに共存・共生でき...
収録日:2024/09/11
追加日:2025/04/25
水にビジネスチャンス!?水道事業に官民連携の可能性
水から考える「持続可能」な未来(8)人材育成と水道事業の課題
日本企業の水資源に関するリスク開示の現状はどうなっているか。革新的な「超越人材」を生み育てるために必要な心構えとは何か。老朽化する水道インフラの更新について、海外のように日本も水道事業に民間資本が入る可能性はあ...
収録日:2024/09/14
追加日:2025/04/24
太陽系は銀河系の中で塵のように小さな存在でしかない
ブラックホールとは何か(1)私たちが住む銀河系
銀河の中心にある巨大なブラックホールは一体何なのか。それを考えるためには、宇宙にある数多の銀河の構造について正しく理解する必要がある。私たちが住むこの太陽系は、天の川銀河という巨大な銀河のごくごく小さな一部分で...
収録日:2018/10/31
追加日:2019/03/26
実は考古学者と人類学者で違う!? 渡来系弥生人の定義
弥生人の実態~研究結果が明かす生活と文化(6)弥生人のDNA
後の二重構造説の見直しにつながっていく「ヤポネシアゲノムプロジェクト」は、これまで手薄だった弥生人のDNA分析によって、古代人の分布について新たな見方を示した。そして、鳥取県にある青谷上寺地遺跡の調査では、現代日本...
収録日:2024/07/29
追加日:2025/04/23