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DATE/ 2022.04.06

日本と世界の奇抜な「珍車」4選

 これまでさまざまな車が開発・販売されてきました。中にはちょっとマニアックすぎて、もしくは需要がニッチすぎてあまり長く販売されなかった車たちもいます。ここではそういった歴代の「珍車」たちについて取り上げてみましょう。

ホンダ「バモスホンダ」(1970-1973)

 2018年5月に生産終了した、ホンダ「バモス」なら知っているという人も多いでしょう。ホンダ「バモス」は軽ワンボックスカーとして大人気でしたが、この名前の元となった車が1970年発売の「バモスホンダ」。なんとオープンカータイプの軽トラです。

 「バモスホンダ」はTN360という軽トラックをベースにしていますが、屋根とドアはありません。ドアの代わりは保護用ガードパイプ。さらに屋根代わりの幌は標準仕様車にはついていないというワイルドさです。さながらバギーといった仕様です。しかし、4WD仕様はありません。フロントから見るとせり出した丸いヘッドライト、中央にスペアタイヤと、とても愛嬌のある表情です。

 幌がないと天候不良時には心配ですが、防水加工されたシートや水洗い可能なフロアなど、防水対策もされています。急な雨でも大丈夫。バリエーションは2人乗り、4人乗り、4人乗り+幌の3種類。どう使うかは乗る人次第、ということのようです。ホンダの遊び心が全面に出た車ではないでしょうか。しかしやはり、ちょっと使いづらかったかもしれません。1973年までの3年間で生産されたのは約2500台でした。
 

トヨタ「セラ」(1990-1994)

 当時のコンパクトカー「スターレット(4代目)」をベースとしながら1クラス上のエンジンを搭載したモデルです。コンパクトな4シーター3ドアハッチバック、1.5リッターの直列4気筒。最高出力は110馬力で価格は160万円(5速MT)。この車が珍車である理由は、ドアの開閉方式が、ガルウィング(バタフライドア)である点です。

 乗降の際にはドアを手前に引いて開けるのではなく、上方向に上げる仕組みです。写真を見ると、両側のドアを開いた状態は、バタフライドアと呼ばれるとおりまさに蝶が舞う瞬間のようで、かっこいいです。ガルウィングといえば、ランボルギーニカウンタックなど、スーパーカーに多く採用されているドアの開閉方法です。

 また1992年には、マツダもガルウィングのドアを搭載した「AZ-1」という軽自動車を発売します。これ以降、今に至るまでガルウィングを搭載した軽自動車は「AZ-1」のみ。1990年台初頭といえば、バブル絶頂の予熱が残る時代。とにかくなにか斬新なことをやろうという空気だったのかもしれません。

フェラーリ「FF」(2011-2016)

 フェラーリといえば高級スーパーカーの代表。見た目、音、スピード、価格など、どの部分でも常に人の目を引きます。しかし、フェラーリFFはこの全てを備えた上でまた異なるアプローチを持っています。フェラーリFFの「FF」とは「Ferrari Four」、「4人乗り」かつフェラーリ史上初の「4輪駆動」です。

 さらに特筆すべきはそのラゲッジスペースが450Lあること。さらにリアシートバックを全倒すれば800Lまで広がります。スポーツカーでありながら800Lまでの荷物容量があるという尖った作りです。スキーやゴルフの用具も収納可能とのこと。

 エンジンは6.3Lの12気筒で、最高速度は335km/h、スタートから3.7秒で100km/hまで加速するモンスターマシンです。さらに、スポーツカーとしてはそれなりの低燃費を実現しています。また、車高の高さも自由に変えられるという充実ぶり。発売時の価格は3290万円でした。「珍車」というには贅沢すぎますが、ある意味フェラーリらしくない、かなり実用性のあるモデルだったといえるでしょう。

BMW「Z1」(1989-1991)

 BMWの「Z1」はオープンタイプの2シータースポーツカーです。5速MTで最高速度は219km/h。発売前の人気はかなり高かったようです。総生産台数はおよそ8000台となっています。この車の特徴はドアの開閉方法にあります。しかし、正確に言えばドアは開閉しません。さらに言えば上にあげるのでもありません。目の前から消えるように、車体下部に沈み込みます。

 電動でガラス部分がドアに吸い込まれていくと同時に、ドア自体も上半分がサイドシルに収納されるのです。ドアが下に消えるという動きは、ガルーダウイングと全く逆の発想でかなりトリッキーです。この車のドアが上下するだけの動画を見ていても飽きません。ただし、全部が収納されるわけではないので、敷居は残ります。スポーツカーなので車高も低く、やや乗り込みにくさはあるようです。

「珍車」は時代の転換点に生まれる

 屋根もドアもない軽トラ、ドアが上に開くコンパクトカー、たくさん積めるフェラーリ、ドアが下に消えるBMW。どれも愛すべきインパクトのある車たちです。「珍車」とはいわゆる、尖りすぎて、またはニッチすぎて長くは売れなかった車と言えるでしょう。

 「珍車」を売り出したメーカーは、チャレンジしています。基本的な需要がある程度満たされた時には、その上にさらなる楽しさや新しさの追求が必要となります。ただし、世の中の経済状況にある程度の楽観がないと開発は難しいでしょう。バブルに向かう1970年代から80年代、バブルの余熱の残っていた1990年ごろの日本は特にこういった条件が揃った時代だったと言えそうです。

 トヨタ「セラ」をはじめとして、レトロおしゃれな日産のパオやフィガロといったレトロなパイクカーも1990年前後に生まれています。ちなみに「珍車」とはいえないですが、ホンダNSXも初代の発売開始は1990年です。日本では特にこの頃、自動車の価値を問い直す転換点があったと言えるのではないでしょうか。

<参考サイト>
よくぞ大メーカーが作った! 奇抜すぎる珍車5選|くるまのニュース
https://kuruma-news.jp/post/177805
【スーパーカー年代記 080】独創的4WDシステムを持つ「FF」はフェラーリ初の4人乗りシューティングブレーク|webモーターマガジン
https://web.motormagazine.co.jp/_ct/17362930
本当にフェラーリなの!? 実用性の高いフェラーリFFとは?|CarMe
https://car-me.jp/articles/11132
BMW Z1(1989-1991):ドアが下に潜り込む独創的なFRオープン2シーター|B-cles
https://b-cles.jp/car/bmw_z1.html
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