資本主義の再定義…哲学で考える
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資本主義を哲学する…まずアダム・スミスの見えざる手と道徳感情論
資本主義の再定義…哲学で考える(1)アダム・スミスの「市場と感情」
中島隆博(東京大学東洋文化研究所教授)
これからの資本主義はどうなるのかを、哲学的に考えていく講義シリーズ。まず、私たちは社会全体が資本主義に覆われていると錯覚しがちだが、実際には医療や教育など資本主義に還元できないシステムが多数存在しており、資本主義はその構成要素の一つにすぎない。また、資本主義は市場経済のことで、アダム・スミスの「見えざる手」のように市場には自己調整機能が効いていると誰もが考えがちだが、それは幻想で、放っておけば機能するものではない。そこで注目すべきは、アダム・スミスが『道徳感情論』で提起した感情の問題である。いったいどういうことなのか。哲学者マルクス・ガブリエル氏の著書『倫理資本主義の時代』(ハヤカワ新書)を切り口に考えていく。(全6話中第1話)
時間:12分30秒
収録日:2026年1月21日
追加日:2026年8月3日
≪全文≫

●社会には資本主義に還元できないシステムがたくさんある


 中島です。今日は「哲学と資本主義」と題して、(はじめに)お話を30~40分ほどさせていただいて、(その後)なるべく質疑応答(の時間を取りたい)ということですので、そちらに時間を割きたいと思っています。

 さて、マルクス・ガブリエルという、今日本でも非常に活躍をしている、ドイツ・ボン大学の哲学の教授がいます。彼はドイツの歴史の中では最も若くして正教授になった先生といわれています。非常に才気煥発なのですが、座持ちもいいといいましょうか、話が面白いのです。

 彼の哲学のバックグラウンドはドイツ観念論です。それとアメリカの分析哲学です。分析哲学とドイツ観念論が一緒になったことが新しいところだと思います。それが評価されているわけですけれど、資本主義の問題とか民主主義の問題、そうした私たちにとって喫緊の社会課題にも積極的に発言をしている人です。

 私は(彼と)共著を出したことがありました。『全体主義の克服』(マルクス・ガブリエル著、中島隆博著、集英社新書)ですが、アメリカのプラットフォーマーを問題にして、ある種のテクノ全体主義というのでしょうか、それをもっと真剣に考えたほうがいいと述べたもので、非常に面白い対談になりました。

 その彼が2024年に『倫理資本主義の時代』(マルクス・ガブリエル著、土方奈美翻訳、斎藤幸平監修、ハヤカワ新書)という本を出したのです。私たちは、倫理と資本主義の関係はそう単純ではないということは理解しているわけです。ただ、後でも触れますけれど、日本では、渋沢栄一などが典型的ですが、倫理と資本主義を結びつける動きは(以前から)結構あったのです。実はそれをヨーロッパの学者たちは、案外、参考にしています。だから、(その様子を見ると、こうした動きは)日本だけなのかなと思ったら、どうもそうではないということが最近よく分かってきました。

 この『倫理資本主義の時代』の中で、ここ(スライド)に書いてありますけれど、資本主義は社会の一つのシステムであるということを強調するのです。

 私たちは資本主義に全部が覆い尽くされたような気持ちで生きていて、社会自体がもう資本主義社会になったと思いがちです。

 ところが、そうじゃないと。資本主義のシステムもあるけれ...

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