●日本車は情報革命を生き残れるか?
最近、ビッグデータや、人工知能(アーティフィシャルインテリジェンス=AI)、クラウドコンピューティングなど、いろいろな議論が出てきており、情報ネットワークや通信技術が社会をどう変えるかが、非常に大きな話題になっています。
よく産業界の人が言うことですが、「トヨタやホンダがソニーのウォークマンのようになってしまうのではないだろうか」という危惧を提示する人がたくさんいます。彼らがどういう意味で言っているかというと、こういうことです。ソニーのウォークマンは、30~40年前に登場した大変素晴らしい画期的な商品で、音楽シーンを大きく変えました。
その後もソニーはいろいろな技術革新や設備投資をし、どんどん改良に改良を重ねて、ウォークマン自身は素晴らしいものになっていったわけですが、人々がインターネットでつながるということと、音楽をデジタル信号に変えることによっていろいろなビジネスが可能になるという、この2点において、やはり大きな遅れをとりました。結果的には、結局、アップルのiPod、iPhoneのような流れに負けてしまったというか、時代遅れになってしまいました。
要するに、全てのものがネットワークにつながることによって、これまでのビジネスとはかなり違ったステージになってくる可能性があるわけです。
自動車がそうなるかどうかは、よく分かりません。しかし、現に自動車でもいろいろなものがネットワークにつながるようになってきています。例えば、地図でいえば、ご案内のようにGoogleマップがどんどん進化していて、渋滞情報から何から、いろいろなことに関して、もう自動車メーカーの純性ナビよりも機能面ではるかに優れている面があります。また、自動運転がどこまで広がるか分かりませんが、Googleをはじめとして多くのIT企業は、車の自動運転走行の実験を始めています。
こういう形で、交通体系そのものがネットワークにつながっていくことによって、その中の一つの部品である自動車などがどうなるかについては、やはり議論していく必要があるのではないでしょうか。
●カテゴリーキラーのキラーが登場した
こういう議論は、ITの世界では昔からあります。例えば、スマートフォンです。電話機がいつの間にかどんどんスマートフォンに変わっていく中で、5年前には世界の携帯電話のシェアの3割前後を持っていたと言われたノキアが、もう携帯電話ビジネスから完全に撤退せざるを得ないような状況になりました。
あるいは、10年ほど前には、多くの小売店を破壊しながら拡大を広げていった、例えばおもちゃのトイザらスや家電のヤマダ電機などのカテゴリーキラーが、品ぞろえと値段の安さで伸びていきましたが、その消費者の全てがインターネットや携帯電話につながることで、アマゾンのようなところにどんどん奪われていってしまう。
したがって、アマゾンのようなインターネットを使った通信販売業者のことを、流通業界では、カテゴリーキラーのキラー、つまりカテゴリーキラーを殺すものだと言われています。今まさにそういうことが起こりつつあるわけです。
このようにいろいろなものがつながり、工場がITにつながることによって、ドイツなどは、インダストリー4.0(第4の産業革命)を進めようとしています。先ほど言ったように、自動車や交通体系がネットワークにつながることによってどうなるかを、今後見ていく必要があります。
●「IoT」が世界を変えた
この情報技術で非常に面白いと思うことがあります。2005年ごろ、今から10年ほど前に、世界の専門家の多くが、「もうこれ以上、情報通信の利用や活用は大きくは増えていかないだろう」と、予想をしました。その人たちの予想がどういう根拠に基づいているかというと、こういうことです。「例えばGoogleで検索するいろいろなウェブサイトだとか、アップルのiPhoneでやりとりする音楽や映像のデータだとか、あるいはフェイスブックでやりとりされるいろいろな個人の情報だとか、こういうものは、全て人間がつくり上げたソフトウェアでありコンテンツである。だから、そういう意味で、音楽でも映像でもウェブサイトでもSNSの情報でも、結局は人間がつくっていくとすると、人間がつくれる限界というものがあるがゆえに、それを超えて急速に増えてくことはあり得ないだろう」。これが、2005年ごろ、今から約10年前の多くのITの専門家が本で書いたことでした。
しかし、現実には何が起こったかというと、「IoT」(Internet of Things/モノのインターネット)は、まさにそれに対するいわば対抗概念です。モノが情報を処理してモノに送る、というと少し言い過ぎかも...