●「金融の実験場」をつくる取り組みが行われつつある
国際競争という面を考えなくても、新しいビジネス、特に新しい技術の場合はトライアンドエラーを繰り返すことで成長する部分があります。ですから、いかに新しい面白い取り組みを許容するかが、これからの金融制度をつくる上では重要な点になってきます。どのようにベンチャーと健全性とのバランスを取っていくかが大きなポイントになっているのです。
この部分は世界中が悩み、試行錯誤しながら制度をつくっているのが実態です。その中で、「レギュラトリー・サンドボックス」という、ある種の「金融の実験場」をつくる取り組みが行われつつあります。その実験場で、少し自由にやらせてみるのです。うまくいったら、望ましい規制のあり方を全国に広げていったり、他の地域に広げていったりする試みが考えられています。その実験場をどのような形で設定するかはなかなか難しいのですが、いずれにしても新しい仕掛けや取り組みを考えなければならないのではないかという議論が盛んになりつつあります。
●ベンチャーには主体的な信頼性の確保が求められる
企業側からすると、国のそうしたレギュレーションを前提に考えなくてはならないのですが、単にレギュレーションだけでなく、対消費者のサービスにおいてどうやって信頼を確保していくかが、フィンテックベンチャーにとってとても重要なポイントです。
なぜなら、日本では、金融サービスはかなり安全に提供されるものだという意識が消費者に染み付いているからです。何かよく分からない新しいビジネスには、消費者はそう簡単に飛び付きません。その課題を乗り越えて、新しいサービスを浸透させていくには、そのサービスがいかに安全か、問題がないかを事業者自身が積極的にアピールしていく必要があります。ですから、法律や制度の対応を待つのではなく、事業者自身が消費者の信頼性を確保していくことがフィンテックベンチャー側にとって求められるポイントになってくると思います。
●ブロックチェーン技術でコストを下げられる
このように、新しい情報が入ってくる中で新しいビジネスを行うことが一つのポイントですが、もう一つ、金融サービスのコストを下げる要因として考えられているのが、先ほど出てきた「ブロックチェーン技術」です。仮想通貨ビットコインの開発でクローズアップされた技術ですが、仮想通貨だけでなく、情報管理などの幅広い分野で応用できると考えられており、いろいろなところで開発が進んでいます。
ブロックチェーン技術の一番の特徴は、詳細に説明すると技術的なところがかなり難しくなるので簡単に申し上げれば、「分散型台帳」という名の通り、いろいろな人に情報を分散して持ってもらうため、集中管理をしなくてもいいということです。その代わり、暗号技術を使って分散的に情報を処理することで、今まで巨額のセキュリティーシステムをつくって、集中管理しなければならなかった決済情報やさまざまな記録を安価で管理し、例えば仮想通貨の権利の移転などをスムーズに行おうという技術です。
この技術を使うことで、ある種の取引情報はかなり安く提供できるようになるだろうといわれています。あるいは、ある企業が開発したブロックチェーン技術をクラウドコンピューティングと同じように使わせてもらうことで、新しい会社が容易に情報を管理できるようになるのです。つまり、コストを下げることが可能になるということです。フィンテックベンチャーにとって大きなカギとなるのは、このブロックチェーン技術の活用なのです。
●メガバンクや大手証券会社、保険会社にも変革をもたらす
フィンテックベンチャーだけでなく、大手金融機関にとっても、この技術の活用がコストを下げる大きなチャンスになるだろうといわれています。これが、フィンテックベンチャーが進んできている大きな局面の一つで、そのためにブロックチェーンという言葉がマスコミで頻繁に出てくるようになったのです。
ここまでは新しいビジネスを動かす方から説明しましたが、こうした大きな変化は当然既存の金融機関、メガバンクや大手証券会社、大手保険会社にも変革をもたらすはずです。大きなビジネスチャンスでもあり、大きな脅威でもあるのだろうと思います。マスコミではフィンテックの進展で銀行がなくなるといったこともいわれていますが、少なくとも短期・中期で考える限りでは、そこまでの変化は起こらないでしょう。むしろ既存の金融機関がどのようにフィンテックベンチャーと連携を取っていくか、どのような形でより良いサービスを提供していくかがポイントになると思います。
そして、現在は連携を模索している段階です。先ほどの銀行法の改正のことも含めて、どこまで株式を投入するか、技術的な...