●技術が国や政府の在り方を大きく変えていく
では、中長期的にはどのような可能性があるかというと、一つは先ほど申し上げたように、貨幣の在り方が大きく変わるかもしれないということです。それから、政府の在り方、規制の在り方が変わってくるかもしれないということです。このあたりは未来予想ですから人によってずいぶん考え方が違いますし、不確実性が高いことも事実です。なかなか明確なことを言いにくいのが実情ではありますが、私なりに考えている点をいくつかお話しさせていただこうと思います。
長期的に構造を大きく変えるエンジンになるのは、やはりブロックチェーン技術でしょう。前回はあまり注目しませんでしたが、ブロックチェーン技術の重要なポイントは、情報の正確性や健全性を技術によって実現させようという点にあります。現在、契約の履行を実現させるのは、政府の国家権力や司法システムです。間違ったことが書かれていないかといったことは、最終的には司法システムで安全性、情報の正しさを担保するのが基本的な前提です。
ところが、ブロックチェーン技術は安全性や情報の正しさを技術そのもので可能にできるかもしれないという扉を開きました。ビットコインはその情報を暗号技術によって分散的に処理することで、技術と参加者がその情報の正しさを証明・確保していく仕組みになっています。ここには中央集権的な政府や司法システムが必要ありません。
そうなってくると、これまでの法律や制度の考え方が変わってきます。この話を進めていくと、政府はどこまで必要なのか、契約が履行されているかどうかをチェックする司法システムや法律がどこまで必要なのか、という議論が出てくるのです。実際、全てをブロックチェーン技術で代替できるのではないか、社会システムそのものを技術に乗せてしまえるのではないかといったことを考えている人が増えてきています。このようにして技術が国や政府の在り方、世の中を大きく変えていくだろうといわれているのです。
●中央銀行はもしかすると要らなくなるのではないか
ただし、現状である程度分かっているのは、今申し上げたように、ブロックチェーン上で政府や司法、法律を代替できる可能性はまったくゼロではないけれど、当初考えられていたよりは難しいということです。つまり、ブロックチェーン上で全てがうまく回せるわけではないことが分かってきています。このあたりはこれからさまざまな試行錯誤や実験が必要になるでしょう。現状は、ビットコインですら完全に分散処理されているわけではありません。また、法律が要らないかというと当然そうではないことは、ビットコインをめぐる詐欺事件で日本の皆さんもご存じのことです。話はそれほど単純ではないのです。とはいえ、やはりある程度の健全性を技術で担保できるというインパクトは大きく、そのことで社会が変わる可能性は否定できません。
それから、中央集権的な決済システム、日本では日銀ネットが、日々の皆さんの決済を支えているわけですが、こうしたものも最終的には全部分散処理されてしまうかもしれません。中央銀行はもしかすると要らなくなるのではないかともいわれています。これも、簡単ではない問題がいくつもあることが指摘されていますが、長い目で見たときには技術革新が決済システムに影響を与えることは当然考えられます。10年後、20年後には、今とはまったく違う決済の在り方が出てきている可能性が十分にあるでしょう。
●仮想通貨が貨幣の在り方を変えていく可能性も
もう一つ、今もさまざまな人たちが検討しているのは、「貨幣の在り方」の変化です。ビットコインは、誰もその通貨の権利を保障したわけではなく、価値を保証したわけでもありません。その意味ではある種のバブルなのですが、技術的につくられた仕組みの中では皆に価値があると思われ、値段が付き、取引されています。支払い手段として使えるようにもなってきています。今後、日本でもビットコインで支払える店舗やサービスが増えてくるといわれています。
こうした仮想通貨が現実に世の中に存在し、それが取引や貯蓄手段として使われるようになったことは、やはり大きなインパクトだろうと思います。これからさまざまな仮想通貨が貨幣の在り方を変えていく可能性は十分にあると思われます。
ただし、現在、仮想通貨によって中央銀行、日本銀行の金融政策が変化しているかというと、まだそこまでのインパクトは持ち得ていないのが事実です。まだまだ全体の取引量の中でビットコインが占めている割合は非常に小さいのです。
●各国の中央銀行が仮想通貨を発行する可能性が大きい
それから、ビットコイン以外の仮想通貨が流通するようになると、中央銀行が発行する貨幣をさまざまな意味で脅かす可能性が...