●技術革新が新規参入のコストを下げた
では、このように金融に関して規制があるにもかかわらず、なぜ今、急に産業の垣根を動かすような大きな動きが出てきているのかを、経済学者の立場から整理したいと思います。
その大きな動きの源泉は何かというと、いろんなコストが下がってきたことが挙げられます。技術革新によって、会社を興すコスト、他産業から金融業に新たに参入するコストが随分下がってきていて、これが現在の垣根を壊したり低くしたりする動きが起きている大きな理由だと思います。言い換えると、そういうコストを下げるような動きほど、フィンテックのブームに対しては大きなチャンスになる、つまりそういうことがどれだけできるか、そこに大きなチャンスがあるということです。
例えば、フィンテックで注目されている一つの分野にクラウドファンディングがあります。当初はネットを通じて寄付を集めるものでしたが、だんだんと寄付だけでなく、やや投資型のクラウドファンディングも出てきました。いずれにしてもクラウドファンディングは少額のお金をたくさんの人から集めるというモデルで金融ビジネスをしようというものです。
インターネットがなければ、例えば1,000円や500円といった金額を何千人、何万人かから集めるのは、非常にコストがかかることでした。仮に現金書留で1,000円ずつ送ってもらったとすると、郵送費や、開封してお金を整理し、口座に預けに行く手間の方がずっとコストがかかってしまいます。ですから、例えばボランティアで寄付を集めるとき、現金書留での送金で多数の人から少額を集めるということはとてもやっていけるものではなかったのです。
ところが、インターネットを通じて少額の送金をしてもらうとなると、送金コストがほとんどかかりません。その結果、クラウドファンディングが成り立つことになり、それをビジネスにすることができるようになったのです。
こうしたネットのテクノロジーは、今申し上げたような新しいビジネスモデルを可能にするだけではなく、例えば新規参入のコストも大きく下げました。例えば、クラウドコンピューティングといわれるサービスがあります。通常いろんなデータを集めようとすると、巨大なコンピューター、サーバーが必要になります。そうしたものを自前で購入したり整備したりするとなると、大変なコストがかかります。そのために、かなりの資金力がないと、そもそもそういうことはできなかったのです。ところが、そういうものをネットを通じて借りることができるようになりました。これがクラウドコンピューティングです。
そうすると、大きな資金力がなくても、まず小さなところから、データを集めるビジネスが可能になります。そして、だんだん拡大してきたら借りる量を増やせばいいだけなので、急成長も可能になります。特に金融分野においては、データをきちんと集めて管理することがとても大きなポイントになりますので、「データを集めて管理をし、ビジネスをやっていく」ことに大きなコストがかからなくなったのは、かなりビジネスをしやすくなったということです。こういうことは新規参入のチャンスを広げることになりましたし、他の産業から金融業に入る上でも、参入コストを大きく下げることができたというポイントがあります。
●金融業では、お金より「情報」が大事
他産業から金融業に移りやすくなったという点では、今のようなサーバーを簡単に借りやすくなったということ以外に、もう一つ重要な点があります。それは、他産業で得ている情報を使って金融をやることが可能になったという点です。
学生に金融業を教えるときには、最初に、「実は金融業はお金を動かすところにポイントがあるのではない。金融業の本質は情報を扱うことにある」と話します。例えば、金融仲介であれば、預金者が知らない情報を集めてきて、「あの会社に貸すといい」という情報を使って貸すところに意味があります。また、単に証券の仲介をする場合でも、やはりそこでどれだけ情報を持っているかが、お客さんに対して証券や金融商品を勧める上での重要なポイントになります。ですから、金融業が扱っているのは、実は情報なのです。
それを考えると、情報技術の革新があり、情報の出方が変わってきているということは、金融業において非常に大きなポイントです。今、起きていることは、これまでとは違う情報の得られ方が他産業でいろいろと可能になっているということです。今まで得られなかった情報を有効活用する形で金融サービスを行えるようになってきたのです。これが他産業から金融業に移れるようになった大きなポイントで、単なる技術革新だけではなく、垣根を低くしている大事なポイントだと思います。
例えば、楽天という会社は楽天市場でい...