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人工知能に代替されない能力を!「AI時代」の教育法

ファミリービジネスとAI(7)これからの教育に向けて

柳川範之
東京大学大学院経済学研究科・経済学部 教授
情報・テキスト
これからの教育に求められるのは、人工知能に代替されない能力の育成だ。しかし従来の教育はむしろ代替されやすい能力ばかり重視してきた。東京大学大学院経済学研究科・経済学部教授の柳川範之氏は、産業構造が大きく、そして速く変動する現代、柔軟性と素早い決断力、小回りの利く組織こそが、世界と渡り合えると語った。(2016年7月25日開催日本ビジネス協会JBCインタラクティブセミナー講演「ファミリービジネスと産業構造の変化」より、全8話中第7話)
≪全文≫

●これからの「秀才」は歩く百科辞書ではない


 次は教育の話です。残念ながら従来の学校教育には、AIやコンピュータに代替されやすい能力を養成してきた傾向があると思います。今の子どもの学校の勉強を見ていてもそうですが、ひたすら暗記をさせて知識を詰め込み、それに対してどれだけ覚えているかを理解させるという教育が、いまだに行われています。でもこういうことは、ほとんど意味を持ちません。

 取材に来たいろいろな人によくお話しする例で、昔は「百科事典みたいな人だね」というのは、かなりの褒め言葉でした。そういう人を本部会や営業に連れて行くと、知らないことがあってもすぐに「ああ、それは実は何年前にこういうことが起きて」と話をしてくれるので、とても助かったわけです。ところが残念ながら、今はそんな人を必要としません。みんなスマホかタブレットを持っているので、ウィキペディアなどで引けばすぐ出てきます。ウィキペディアという百科事典がそこに入っているからです。

 昔はある程度知識を持っているとか、覚えていることにとても価値があったのですが、スマホが片手にある時代には、その必要性はビジネスにおいて、かなり下がっています。むしろ重要な能力は、その情報を元にして、お互い「ああ、こう分かりましたよね」というところから話をどう広げていけるか、交渉を続けていけるかにあるはずです。

 ところが、そこに対する教育が残念ながら行われていないのです。知識や暗記能力を問うても、AIには簡単に負けてしまいます。AIに代替されない能力を、学校教育でどうやって育てていくか。そのための入試をやっているのは東大ではないのかと言われると、返す言葉もありませんが、先ほど申し上げたように、私はいわゆる東大入試は一回も受けたことがないので、そこは許していただけないかと思っています。

 残るは理系と文系の融合です。これは本当に必要なことで、そこが完全に分かれてしまうことが問題だろうと思います。


●リーダーシップと迅速さという巨大なメリット


 最後に、これまで申し上げた構造の中でいくと、何が起こってくるかをお話しします。社会構造の非常に大きな変化が起こっていて、その変化にうまく対応していかなければいけません。そうすると、どちらかといえば小さくて新しい会社が、世界を相手にビジネスできる時代になっています。例えば、最近話題になっているUberやAirbnb、あるいはFacebookなどもそうですが、非常に少人数で世界を相手にビジネスをやっています。そういう意味で、これからの時代は「小さくて小回りの利く会社」、そういう組織が圧倒的に重要性を持つといえます。

 それに関しては、ファミリー企業の利点も非常に大きなものがあると思います。それは、「柔軟性がある」ということです。ファミリーのトップはリーダーシップを発揮しやすいからです。シリーズの最初に申し上げた通り、リスクも背負っているわけですが、強いリーダーシップを持っているところがファミリー企業の大きなポイントです。そのため、大きな環境変化に柔軟に対応できます。

 今後、大企業はあまり必要なくなります。むしろ必要なのは小さな組織の集合体であることです。組織は小さくても良く、かつ素早い意思決定ができる。これが圧倒的に重要な部分です。ステレオタイプ的な話をいえば、シャープがホンハイ(鴻海)に買収されました。さらに、ロボット技術において、日本は圧倒的に世界に負け続けています。

 ところが、シャープの技術は決して劣っていたわけではないし、ロボット技術も世界的に見れば日本は圧倒的に良い技術を持っています。それなのにGoogleに負けていくのです。シャープなどの日本企業にはなくて、Googleやホンハイにあるものは何か。それは、「素早い意思決定」「迅速な意思決定」「決断力」です。これからは圧倒的にここが問われる時代に移ります。ホンハイが見せたような、決断のスピードの早さです。これが大きなポイントになると思います。

 その意味でファミリー企業は、通常の企業に比べると、決断が早くできます。ファミリー企業ならではの決断の早さを、ぜひ生かしていただきたいと思います。それこそが、これからのAI時代における大きな企業の発展策であり、生き残り策であると思います。

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