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人工知能の能力でできることはかなり限られている

ファミリービジネスとAI(4)人工知能に対する誤解

柳川範之
東京大学大学院経済学研究科・経済学部 教授
情報・テキスト
東京大学大学院経済学研究科・経済学部教授の柳川範之氏は、AI(人工知能)をめぐる昨今の受け止められ方には、多くの誤解がつきまとっているという。柳川氏によれば、人工知能は決して人間に反旗を翻すような存在にはならないという。人工知能にできることは限られているため、それをどう使いこなすかが今後の課題になる。(2016年7月25日開催日本ビジネス協会JBCインタラクティブセミナー講演「ファミリービジネスと産業構造の変化」より、全8話中第4話)
≪全文≫

●人工知能に対する誤解(1):人間の能力を凌駕した?


 次に人工知能の話に移りたいと思います。人工知能の話は世界的にも大きな話題になっています。新聞やマスコミの報道を見ると、もうAI一色という感じです。こうした状況が良いか悪いかは別にして、端的にいってAIは世界を大きく変えていくだろうと思います。

 前回も申し上げたように、ファミリービジネスはこうした変化に対し、非常に大きな優位性を持ち得るというメリットがあります。人工知能の発展は、昔であればロボットや人工知能にできることは、単純労働やルーティンワークだけだといわれていたのですが、最近の急速な発達で、かなり知的能力を必要とする仕事まで、コンピュータが代替するようになり、これが働く環境や企業の環境をかなり急速に変化させることは、すでに広く知られるようになってきました。

 何が起こっているのかというと、細かくは説明できませんが、流行の言葉でいうと「ディープラーニング」や「ビッグデータ」の活用、それから孫正義さん(ソフトバンクグループ)が今度アームホールディングス(イギリスの大手半導体開発会社)を買収したので再び焦点が当たっているIoT、「モノのインターネット」といわれている分野に発展が起こっているということです。ここがかなり重要なところです。

 ただし大きなポイントでは、かなり誤解があります。囲碁のプロにAIが勝ったというニュースがありましたが、GoogleのAI(Googleのディープマインドいう会社が開発した「アルファ碁」のこと)が勝ったので「AIが人間を超えた」とか、「Googleの人工知能がやがて人類の知能を凌駕するに違いない」という論調がマスコミにあります。しかしこれはかなり誤解です。それも、かなりいろいろな誤解が入っています。

 そもそも人間の能力を超えたコンピュータは、ずっと前からありました。計算のスピードならば、ずっと前にコンピュータは人間を追い越しています。部分的には、コンピュータが人間を追い越したことは、かなり前からのことです。だから今さら、部分的に人間を追い越したことをそこまで驚く必要はありません。


●人工知能に対する誤解(2):囲碁の勝者はAI?


 また囲碁の話でも少し誤解があります。勝ったのは人工知能ではありません。勝ったのは、Googleの人工知能を使った人間です。そのプログラマーが裏側で必死に頑張っているのです。だからあの結果は、彼らが必死になってプログラムを工夫した結果であり、勝ったのはAIを用いた人間の方なのです。また棋譜は、完全に過去の人間のものを活用しています。ここからいっても、コンピュータが人間に勝ったというのはやや誤解を招く言い方です。

 後でまた話に出てきますが、最近だと小説を書くAIも出ているといわれますが、これもかなり誤解があります。AIに小説は書けません。あれはAIを使って人間が小説を書いているにすぎません。そこが重要なポイントなのです。囲碁は、選択肢の次元が低い、特殊なゲームです。盤上の格子のところにしか石は置けない、というルールになっています。だからそれしかやれないのです。戦う手はそれしかありません。もちろん、そこに無限に近い選択肢があるから大変だということで、人工知能では処理できないといわれていました。しかしもともと囲碁は、選択肢の次元が極めて低い特殊なゲームです。

 そのためある意味で囲碁は、AIが極めて得意な分野です。しかし例えば、囲碁をやっている最中に突然囲碁の石を置くのを止めて、この辺(離れた所)に絵を描き出し、その絵で勝負して「俺の方がいい絵を描ける」といった行為は、AIには無理です。しかし、人間のビジネスは、ビジネスのフィールド、戦うフィールドを変えてこそ経営の意味があります。


●経営と囲碁の違い


 経営のポイントは、「ここでやるよ」と言って、実際そこでだけ勝負して相手と必死で詰めていったら、もうぼろぼろになるのは見えているから、どれだけ戦うフィールドを変え、相手が思い付かなかったようなところで勝負するかにあります。皆さんには「釈迦に説法」ですが、これが結構大事なポイントです。

 囲碁は、そういうことができないゲームです。だからAIは囲碁で勝てました。しかしAIが勝てたことを逆にいえば、きわめて特殊な状況でしか勝てないということです。だからAIが人間を超えたとか、AIが人間を凌駕しているという議論には、かなり誤解が含まれています。

 ただ囲碁の話で注意すべきポイントは、ディープラーニングを使っていることです。ディープラーニングによってAIが自分で学習していくことは、大きなポイントです。AIが自ら学習していくプロセスは、人の手をかなり離れます。AIの学習プロセスが分からないため、なぜAIがこういう結果を導き出したかを追確認ないし追学習することが...
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