●人工知能に対する誤解(1):人間の能力を凌駕した?
次に人工知能の話に移りたいと思います。人工知能の話は世界的にも大きな話題になっています。新聞やマスコミの報道を見ると、もうAI一色という感じです。こうした状況が良いか悪いかは別にして、端的にいってAIは世界を大きく変えていくだろうと思います。
前回も申し上げたように、ファミリービジネスはこうした変化に対し、非常に大きな優位性を持ち得るというメリットがあります。人工知能の発展は、昔であればロボットや人工知能にできることは、単純労働やルーティンワークだけだといわれていたのですが、最近の急速な発達で、かなり知的能力を必要とする仕事まで、コンピュータが代替するようになり、これが働く環境や企業の環境をかなり急速に変化させることは、すでに広く知られるようになってきました。
何が起こっているのかというと、細かくは説明できませんが、流行の言葉でいうと「ディープラーニング」や「ビッグデータ」の活用、それから孫正義さん(ソフトバンクグループ)が今度アームホールディングス(イギリスの大手半導体開発会社)を買収したので再び焦点が当たっているIoT、「モノのインターネット」といわれている分野に発展が起こっているということです。ここがかなり重要なところです。
ただし大きなポイントでは、かなり誤解があります。囲碁のプロにAIが勝ったというニュースがありましたが、GoogleのAI(Googleのディープマインドいう会社が開発した「アルファ碁」のこと)が勝ったので「AIが人間を超えた」とか、「Googleの人工知能がやがて人類の知能を凌駕するに違いない」という論調がマスコミにあります。しかしこれはかなり誤解です。それも、かなりいろいろな誤解が入っています。
そもそも人間の能力を超えたコンピュータは、ずっと前からありました。計算のスピードならば、ずっと前にコンピュータは人間を追い越しています。部分的には、コンピュータが人間を追い越したことは、かなり前からのことです。だから今さら、部分的に人間を追い越したことをそこまで驚く必要はありません。
●人工知能に対する誤解(2):囲碁の勝者はAI?
また囲碁の話でも少し誤解があります。勝ったのは人工知能ではありません。勝ったのは、Googleの人工知能を使った人間です。そのプログラマーが裏側で必死に頑張っているのです。だからあの結果は、彼らが必死になってプログラムを工夫した結果であり、勝ったのはAIを用いた人間の方なのです。また棋譜は、完全に過去の人間のものを活用しています。ここからいっても、コンピュータが人間に勝ったというのはやや誤解を招く言い方です。
後でまた話に出てきますが、最近だと小説を書くAIも出ているといわれますが、これもかなり誤解があります。AIに小説は書けません。あれはAIを使って人間が小説を書いているにすぎません。そこが重要なポイントなのです。囲碁は、選択肢の次元が低い、特殊なゲームです。盤上の格子のところにしか石は置けない、というルールになっています。だからそれしかやれないのです。戦う手はそれしかありません。もちろん、そこに無限に近い選択肢があるから大変だということで、人工知能では処理できないといわれていました。しかしもともと囲碁は、選択肢の次元が極めて低い特殊なゲームです。
そのためある意味で囲碁は、AIが極めて得意な分野です。しかし例えば、囲碁をやっている最中に突然囲碁の石を置くのを止めて、この辺(離れた所)に絵を描き出し、その絵で勝負して「俺の方がいい絵を描ける」といった行為は、AIには無理です。しかし、人間のビジネスは、ビジネスのフィールド、戦うフィールドを変えてこそ経営の意味があります。
●経営と囲碁の違い
経営のポイントは、「ここでやるよ」と言って、実際そこでだけ勝負して相手と必死で詰めていったら、もうぼろぼろになるのは見えているから、どれだけ戦うフィールドを変え、相手が思い付かなかったようなところで勝負するかにあります。皆さんには「釈迦に説法」ですが、これが結構大事なポイントです。
囲碁は、そういうことができないゲームです。だからAIは囲碁で勝てました。しかしAIが勝てたことを逆にいえば、きわめて特殊な状況でしか勝てないということです。だからAIが人間を超えたとか、AIが人間を凌駕しているという議論には、かなり誤解が含まれています。
ただ囲碁の話で注意すべきポイントは、ディープラーニングを使っていることです。ディープラーニングによってAIが自分で学習していくことは、大きなポイントです。AIが自ら学習していくプロセスは、人の手をかなり離れます。AIの学習プロセスが分からないため、なぜAIがこういう結果を導き出したかを追確認ないし追学習することが...