●人工知能に対して人間が有利な点は何か
では(AIに対する)人間の相対的な有利性は何なのか。人間の強みはどこにあるのかに関する解説です。これについては、本当ならAIの専門家にきちんと聞いた方がいいのですが、社会科学者なりの私の理解を申し上げます。現状でのAIの強みは、ビッグデータにあります。すなわちデータの蓄積が重要なのです。ディープラーニングは必要なデータ量を大きく下げることに成功し、比較的少ないデータでもたくさんのことが分かるようになってきました。しかしそれでも、データの蓄積が命です。
そう考えるとデータの蓄積が使えない、データの蓄積による学習が使えない分野は、人間の方が相対的に強みがあることになります。それは、「全く新しい組み合わせを考える」ことです。つまり、過去のデータがないため、全く新しい組み合わせを考えようとしても、それらの個別性が強く、過去のデータがデータとして使えない。こういう問題に関しては、人間の方が相対的に有利性を持つということが分かっています。
その中で、相当大きな課題が人間の言葉を理解することなのです。これについては、AIの専門家が今かなり苦労していろいろやっています。私の友人で、一緒に研究している新井紀子さん(国立情報学研究所情報社会相関研究系教授)という方がいらっしゃいます。ご存じの方もいるかと思いますが「ロボットは東大に入れるか」といって、東ロボくんをつくるというプロジェクトを進めています。そういう意味で彼らも、AIを必死に研究して、入試問題を解かせている研究者です。
驚くべきことに、中堅クラスの大学は現在完全にコンピュータの実力で入学できます。つまり中堅クラスの大学入試のレベルは、コンピュータに負けています。かなり上の方の大学は、まだ勝てません。勝てない理由は、実は本当の意味の学力の問題ではありません。コンピュータが勝てない理由が別にあります。それは言語の話です。
●人工知能には言葉の理解が難しい
言語を理解することはとても難しい。それに関していえば、実は単純な翻訳技術の精度は相当上がっています。例えばGoogle翻訳ですが、細かいところまでは分からないけれども、おおよそ何を言っていることか分かります。実はこれがかなりできるようになりました。精度が相当上がっているはずなので、ドイツ語やフランス語の文章などを日本語に翻...