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ギリシャ債務問題で思い出すヘロドトスの言葉

新しい東方問題~EUの課題(1)ギリシャのうそと借金の代償

山内昌之
東京大学名誉教授/歴史学者/武蔵野大学国際総合研究所客員教授
情報・テキスト
アレクシス・チプラス ギリシャ大統領(右)
ペルシア戦争をはじめ、古代史においてイランとともに史劇の主役を演じたギリシャ。古代ギリシャの歴史家ヘロドトスによると、古代イラン人は「最も恥ずべき行為の第一はうそをつくことで、第二は借金をすることだ」と考えていたという。翻って現代のギリシャは、うそと借金にまみれている。歴史学者・山内昌之氏が古代ギリシャの知恵を紹介しながら、過ちを繰り返すギリシャに諌言する。シリーズ「新しい東方問題」第1回。
時間:09:45
収録日:2015/07/29
追加日:2015/08/24
カテゴリー:
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≪全文≫

●ペルシア戦争に絡んでいたギリシャとイラン


 皆さん、こんにちは。

 紀元前499年以降、ペルシア戦争が、当時のアケメネス朝ペルシアとギリシャのポリス国家との間に繰り広げられたことは、高校の世界史でも馴染みが深いテーマであります。しかし、このペルシア戦争には、現代の国際危機の当事者である三つの主体と地域が絡んでいたことは、あまり知られていません。戦争の発端は、古代のイラン、すなわちアケメネス朝ペルシアの国王ダレイオスが、現在のウクライナに当たる地域に遠征を企てて、ドナウ川をはるかに越えて大遠征を行ったことにさかのぼります。しかし、そこで彼は非常に苦しい経験をすることによって、ギリシャやイランには、一時行方不明になったという誤報が伝えられます。

 いずれにしましても、ヨーロッパの併合を企て一時行方不明も伝えられた、こうした苦難あふれる遠征の機会を利用して、当時アジアの最西端にあった小アジア、すなわち、今のトルコの西端にあったイオニア地方のギリシャ人たちが反乱を起こしました。これがペルシア戦争の発端になったわけであります。


●現代ギリシャはうそと借金にまみれている


 最近のギリシャの債務問題と、イランの核協議に関する最終合意を見るにつけて、古代ギリシャの歴史家ヘロドトスの言葉を思い出す人も多いでしょう。私がヘロドトスの言葉で非常に感心するのは、古代イラン人が述べたという次のような箴言(しんげん)です。それは、「最も恥ずべき行為の第一はうそをつくことで、第二は借金をすること」という言葉で、そのように古代のイラン人は考えていたというのです。

 ですから、現代のイランの商人や取引する人たちも、「俺たちはうそをつかないのだ。古代からそう言われているではないか」と言って、胸を張るそうです。しかも、「戦争をした相手国のギリシャの歴史家が言っているのだから、間違いないだろう」と言って、したたかな商才ぶりを発揮したりするというのです。

 それはさておき、『モラリア』の作者、ギリシャのプルタルコスに言わせると、順番は逆になっていまして、第一が借金をすることであり、第二がうそをつくことだというのです。いずれにしましても、借金をした者はどうしてもうそをつくということで、現代人も拳拳服膺(けんけんふくよう)しなければいけない真理がそこには含まれているのです。

 翻って現代のギリシャを見ますと、うそと借金にまみれています。うそと借金を平気で重ねてきたという点で、現代ギリシャ人は、精神的な祖先の時代よりもひどいと言わなければいけません。

 そして、イランは、核への執着についても、ずっと秘密裏に、あるいは、公然と開発してきた事実を隠しながら、恬(てん)として恥じないのがその特徴でありました。

 ギリシャとイランは、金融と安全保障の違いはありますけれども、それぞれ古代史において、史劇(歴史ドラマ)の主役を積極的に演じた2カ国であります。そのギリシャとイランは、現代史におきまして、やはり国際危機のネガティブな、負の主人公になっているのは、大変興味深いことです。


●ギリシャ人の体質が大きなツケを生んだ


 ギリシャの過ちをそもそも考えてみますと、2001年、国内総生産(GDP)の約13パーセントを占めた財政赤字を1パーセントだとうそをついてユーロを導入した時にさかのぼります。ユーロ導入に際しては、GDP比3パーセント以内でないと駄目だという厳しい標準の中で、赤字は1パーセントだと主張したわけです。こういうことに手を貸した当時のアメリカのディーラーたちも、まことにひどいものがありますけれども、ともかく、こうした過ち、意図的な偽りの結果としまして、いまやギリシャの抱える公的債務は、2428億ユーロ、日本円で換算するとおよそ33兆円にも及んでいます。

 しかしながら、これは、現代日本人にも経験があるかもしれませんので、人ごとではありません。借金を重ねると、ついにうそをつけないときが来るものなのであります。

 今のギリシャの首相であるアレクシス・チプラス氏は、中南米の革命家、エルネスト・チェ・ゲバラを崇拝している人物ですが、ゲバラの崇拝者で反緊縮路線、すなわち、徹底して金を使い、消費マインドを盛んにしようというチプラス首相でさえ、実はうそをつけないときが来たことを認識して、銀行を休業し、そして、資本規制を市民に強制します。すなわち、銀行のキャッシュディスペンサーを使えなくしたり、あるいは、貸し出し制限を1日いくらというようにしたりするのです。このように、市民にやむを得ず苦しい生活を強制せざるを得なくなったわけです。

 それは、欧州連合(EU)や欧州中央銀行(ECB)から金融支援を受けるために、財政改革法案を国会で承認させる必要があった...
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