●2011年はレアル高が問題になっていた
では二つ目のテーマに移ります。ブラジルレアルの下落が明確になってきたのは、今年や去年ではありません。2011年です。手前味噌ですが、私は2011年にブラジルレアルが下がりだすと判断して、過去4年間、ほぼ一貫してレアルは下がると主張してきました。では、2011年に何があったのか。それをまとめたものがこの一覧表です。
実は、2011年ごろまではレアル安ではなく、レアル高が問題になっていました。日本の個人投資家の間でも、ブラジルレアル建ての投資信託が相当人気を博していたのです。ブラジル政府や中央銀行にとっては、レアル高をいかにコントロールするかが課題となっており、いまブラジルレアル安をいかに止めるかということと対照的な状況にありました。そのころのブラジル政府は、為替市場でレアル売り介入を行っていたと言われています。また、海外からブラジルに入り込んでくる投資資金に金融取引税をかけるといった形で、レアル買いを極力削減しようとしていました。
●ブラジルは内需抑制策に一生懸命だった
こうしたブラジルの通貨高抑制策は、2011年ごろ、市場で相当話題になっていましたが、私は、実は通貨高抑制策はそれ自体あまり重要なものではなく、どちらかというと付随的な政策と認識していました。というのも、当時ブラジルが一生懸命取り組んでいたのが「内需抑制策」だったからです。
当時から、アメリカ、日本、ヨーロッパを含めたG20という枠組みの中で、景気回復と同時に、ある国は経常黒字が多く、ある国は経常赤字が大きいという国際収支の不均衡を是正しようという取り組みが行われてきました。ブラジルは経常赤字が大きい国ですから、極力輸入を減らしたい。そのためには、国内景気を減速させる必要がある。そこでブラジル政府と中央銀行は、消費や投資を抑制させる内需抑制策を一生懸命実行していたのです。
内需抑制策には、金融引き締め、中央銀行の利上げが欠かせません。ところが、金利が上昇すると、ブラジルレアルを買う動きが出て、レアル高になります。円高で日本の製造業が苦しくなったのと同じように、レアル高になると、ブラジルの輸出が苦戦する一方でどうしても輸入が増えてしまう。そこで経常収支を改善させるために、さらなる内需抑制策を取るわけですが、中央銀行の利上げのためにもっとレアルが上昇し、なかなか経常赤字が縮小しないというジレンマに陥ってしまっていたのです。この利上げに伴うレアル高を抑制するために、ブラジルレアル売りの介入や、海外から流入する資金に対して金融取引税をかけるといった取り組みを行っていたのが2011年のブラジルなのです。
●新政権が通貨安政策に打って出た
ところが、2011年半ばに、内需抑制のために利上げを行っていたブラジル中央銀行が金融緩和に転じました。ちょうどそのころ、ルーラ政権からルセフ政権に政権交代が起こったのです。私は、これが新しい政権の経済政策に関係していると判断しました。要は、従来G20の優等生として内需抑制策、経常赤字の縮小策を継続してきたブラジルが、単なる通貨安によって経常収支を回復させようという通貨安政策に打って出たと考えたのです。
これは、金融引き締めから金融緩和に転じるといった単純な政策転換ではなく、従来軸足を置いていた内需抑制策を途中で放棄し、単なる通貨安政策に切り替えたということなのです。その意味は非常に大きいと判断し、ブラジルレアルは世界で最も下がりやすい通貨になっていくだろうと私は見ました。その時はまだレアル高でしたが、この通貨は下がっていくと確信していました。その時点では、まさか現在のような暴落が起こるとまでは思っていませんでしたが、この4、5年間のレアルの方向性は、2011年の私の判断に見合っていたと考えています。
●昨年から内需抑制策が復活した
ところが、いま足元では、ブラジルの経済政策がガラリと変わってきています。まず、このグラフでお分かりいただける通り、2011年から金融緩和を行なっていた中央銀行が、過去2、3年は金融引き締めに転じているのです。特に、実は今年に入ってから、いったん中座していた金融引き締めが再開されています。これは非常に重要なポイントです。
昨年、ブラジルで大統領選挙が行われ、ジルマ・ルセフ大統領が再任されました。この第2期ルセフ政権で、ルセフ大統領とあまり関係がよくないと言われているジョアキン・レビィという方が財務大臣に就任し、財政健全化のために緊縮財政を断行したり、インフレ抑制、通貨安を止めるために中央銀行の利上げを黙認するなどの大きな財政政策の転換を行ったのです。こうした背景の中で、いったん止まっていたブラジル中央銀行の金融引き締め...