●通貨安対策でやるべきことはもうやったという認識
こういった中、ブラジルレアルがどのようにしたら底入れしていくのかということが、今回三つ目のテーマです。まず、ブラジルレアルに限らず、世界の新興国通貨全体の前提としては、やはりアメリカや中国の株式市場といった世界のグローバルな市場が比較的底堅さを取り戻していくことが、前提となってきます。
この前提の上で、ブラジルにとって求められるものは、一つは、やはり通貨安を止めるための政策対応です。この政策対応に関しては、先ほどお話しした通り、ジョアキン・レビィ財務大臣の下での緊縮財政(財政健全化策や中央銀行の利上げ政策)が行われていますから、実は、ブラジル自体は政策対応としてやるべきことはもうやってしまっているという認識でいいと思います。
●政治安定化において注目すべき2人のキーマン
二つ目は、政治環境の安定です。この政治関係に関していえば、2人のキーマンがいます。1人は、先ほどからお話ししているレビィ財務大臣です。このレビィ財務大臣の下で、緊縮財政、中央銀行の利上げ政策をかなり進めてきたわけですが、ブラジルではいま、このレビィ財務大臣が辞任するのではないかという憶測が高まっていて、こういった憶測も1カ月ほど前までは、ブラジルレアル売りの要因となっていました。ただ、ここにきて、レビィ財務大臣辞任後の後任として、ルーラ大統領時代にブラジル中央銀行の総裁だったエンリケ・メイレレス氏が財務大臣になる可能性があるということで、レビィ財務大臣が辞めた場合にも、比較的信頼度の高い政策が行われるのではという期待が強まっています。
もう1人の政治面でのキーマンは、エドゥアルド・クーニャ下院議長という人物です。このクーニャ下院議長は、ルセフ政権の連立与党の一角を占める政党・ブラジル民主運動党(PMDB)ですが、連立与党の中で反ルセフ派の筆頭でした。国営石油会社ペトロブラスの汚職問題に絡んで、ルセフ大統領を弾劾する動きを率先して進めてきた立場の人です。ところが、クーニャ下院議長も、その汚職問題に少し関与しているのではないかという疑惑が出てきていて、ここにきて辞任観測が高まっています。クーニャ下院議長が何らかの理由で辞職することになると、政治安定化に向けた期待が高まる可能性があります。
●資源相場、コモディティ価格の上昇が鍵
三つ目の要因は、資源相場、コモディティマーケットの安定です。先ほど新興国通貨の対米ドルでのパフォーマンスのグラフを見ていただきました。お話しした通り、ブラジルレアルをはじめとした資源国通貨が今年の9月にかけて相当下がったわけですから、原油、資源相場の底入れなくして、資源依存度の高い新興国通貨が大きく底入れ、反発していくことは、なかなか期待しがたいところだと思います。
非常に興味深いのはいま見ていただいているグラフです。これは、「CRB指数」という総合的なコモディティ価格の指数と、ブラジルレアル・メキシコペソの推移を対比させたものです。ブラジルレアルとメキシコペソは、ともに中南米の新興国通貨です。これを見ていただくと、長期的に見れば、商品相場、資源価格が上がっているときの方が、ブラジルレアルがメキシコペソに対して上昇しやすい。
逆に、過去4、5年のように、コモディティ相場、資源価格が下がるときには、ブラジルレアルはメキシコペソに対して値を崩しやすい。逆から言えば、メキシコペソはブラジルレアルに対して上昇しやすいことを示唆しています。
このグラフが物語るものは何かというと、やはりブラジルは、特に鉄鉱石の輸出を通じて、中国への依存度が非常に高かったということです。メキシコは、それとは対照的に、アメリカへの依存度が非常に高い。そのため、鉄鉱石輸出を通じて中国への依存度を高めていったブラジルは、中国経済が伸びて資源価格が上昇しているときには、アウトパフォームしやすかった。一方で、中国経済の高成長が止まり資源価格も低迷する環境になってきたという時代を迎えて、ブラジルレアルがメキシコペソに対してどちらかというと低迷しやすくなっていることが示唆されているわけです。
こういった観点においても、ブラジルレアルが底入れして持続的な上昇局面に入っていけるかどうかは、コモディティ価格、資源相場が鍵を握ります。足元では、まだ原油相場が40ドル台と低迷していますから、この最後の観点に関していうと、まだブラジルレアルの行く末を慎重に見る必要があるという状況です。いずれにしても、このコモディティ相場の上昇が今後起こってくれば、そのときはブラジルレアルの底入れ、反発のストーリーの確度が高まっていくだろうと考えています。私の話はこれで終わらせていただきます。