●強硬姿勢を緩めないロシア
皆さん、こんにちは。今回のロシア軍機の撃墜事件について、プーチン大統領は強硬な態度を緩めようとしていません。パリで開かれた気候変動に関わる会議においても、エルドアン大統領の会見、あるいは会談の申し込みを拒否し、強硬な姿勢を崩していません。わが国の安倍晋三首相はエルドアン大統領に会った際に、何かできることがあれば手伝うと、調停、仲介の労について意思を表示しましたが、いまのところプーチン大統領はそれに耳を貸す様子はありません。
それどころか、プーチン大統領はこれを機会に、従来ロシアの諜報機関が握っていたトルコとIS(イスラム国)との関係についてのさまざまな情報を虚実取り混ぜながら流しています。最も重要なのは、トルコがISの石油を買っており、その利権を守るためにそのルートを妨害していたロシアの空軍機、飛行機を落としたとロシアが主張するようになったことです。
●火種となったISの石油利権問題
エルドアン大統領の娘婿はエネルギー大臣に任命されたベラトアルバイラクという人物です。11月28日にロシアの大統領報道官のドミトリイ・ペスコフ氏は、その4日前、24日にエネルギー大臣に任命されたばかりのベラトアルバイラク氏こそが、IS(イスラム国)の石油利権に関わっているという一定の情報があると、意図的に公言しています。プーチン大統領は、26日にフランソワ・オランド大統領と会談した後、記者会見の席上で、シリアで略奪された石油の車列が、昼夜を問わずシリアからトルコに入っている様について、まるで動く石油パイプラインだと形容したことがあります。トルコ政府が知らないというのは信じがたい、というものでした。
しかし、アメリカ政府はこれに反発し、ISとアサド政権こそが裏でつながっていて、石油を売買していると考えます。アメリカの財務省は、11月25日にシリアとロシアの二重国籍を持つシリア人実業家を資産凍結などの制裁対象に指定し、エルドアン大統領もISから石油を買っているのはアサド政権だとロシアを揺さぶり、批判しています。
互いに大変な中傷、非難の合戦が応酬されているわけです。シリアのワリード・ムアッレム外務大臣は、27日にモスクワにおいて、ロシア軍機をトルコが撃墜した理由は、エルドアン大統領の娘婿の石油権益、石油利権を守るためだと、公然と話しています。これらについては、一部すでに日本の新聞、例えば、毎日新聞の11月28日等において報道されており、西側においても広まってきています。
もちろん最終的な真実は藪の中にありますが、少なくともトルコとIS(イスラム国)とのつながりが何らかの形であるのではないかということは、私もすでに推測していたことで、かつその一部について10MTVで紹介してきたところです。
●シリア問題で絶対的優位に躍り出たロシア
ロシアは今回の襲撃事件を、シリア問題において最大限に利用するはずです。他方、トルコには切り札というものがあまりありません。この危機が進行すれば21世紀の露土戦争になりかねないという状況にありますが、それを解消するために、ロシアはトルコに対して非常に厳しく高いハードルを課して要求を突き付けるものと思われます。
私の考えでは、それは第1に、トルクメン人に与えている援助の中止。第2に、北シリアにおいて進んでいる戦い、特にアレッポをめぐるアサド政府軍と反アサド勢力、この戦いへのトルコの関与の中止。それから3番目には、ISとトルコの関係をいかなる形であれ断絶すること。こうした点を含め、ロシアは関係者の処罰も併せて迫りますが、目指すところは、シリアにおいてトルコがこれまで築き上げてきた戦略的優位性を放棄させることです。それによって、シリアにおいて地政学的に優位に立とうというのが、ロシアの誠に率直なもくろみなのです。
ロシアは、こうした戦略的な優位性をトルコに対して確立することによって、トルコの一番弱い脇腹、またアキレス腱かもしれない、テロ組織とみなしてきたシリアのPYD(民主連合党)、あるいはYPGと略称される人民防衛隊という組織を援助し、クルド人の自治にまでつながるようなことを後押ししていく可能性が出てきました。
結論を申すならば、今回の撃墜事件は、それによってアメリカやヨーロッパ、あるいはNATOのシリア問題、または中東における力が後退したことを示しています。反対に、ロシアこそがシリア問題や中東問題における主要なプレイヤー、しかも最も核になる、中心プレイヤーとして地位を確立した、もしくは確立しようとしているということを意味した事件だと言ってよろしいかと思います。
今回の撃墜事件は、シリア戦争後の講和のあり方、あるいはシリアの戦力分布図の描き方(ドロ...