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北シリアに渦巻く民族問題がロシア機撃墜事件を複雑にする

トルコ軍ロシア機撃墜問題(2)北シリアをめぐる民族問題

山内昌之
東京大学名誉教授/歴史学者/武蔵野大学国際総合研究所客員教授
概要・テキスト
トルコ軍によるロシア機撃墜事件の問題を考えるシリーズ講話第2話。今回は、トルコとロシアが対立するそもそもの要因となっている北シリア情勢と、そこで渦巻く民族問題に焦点を当てる。歴史学者・山内昌之氏が、クルド人、トルクメン人、チェチェン人、そしてISが絡み合う複雑な関係性を浮き彫りにする。(全4話中第2話目)
時間:10:02
収録日:2015/12/02
追加日:2015/12/24
カテゴリー:
≪全文≫

●撃墜事件を複雑化させている2つの問題

 
 皆さん、こんにちは。今日は前回に引き続き、トルコとロシアの間に高まっている緊張についてお話してみたいと思います。

 エルドアン大統領の率いるトルコ政府が、今回ロシアの空軍機を撃墜した、またはそれを黙認していることに関しての詳細な背景についてはまだ知られていませんが、私なりに少しそのバックグラウンドについて歴史的に考えてみたいと思います。

 トルコが今回このような挙に出たのは、シリアとトルコにまたがる問題が介在しています。今、地図でお見せしていますが、トルコにはハタイ州、あるいはハタイ県と呼ばれているところがあります。ここは、もともとアレキサンドレッタといいまして、伝承では、古代にアレクサンドロス大王が建設した都市とされています。もともとシリアとの係争地域でもあった場所ですが、このハタイ県に接するシリアの要衝(大事な場所)に、バユルブジャクという町があります。バユルブジャクは、もともと北シリア、シリアの北部から東地中海に抜ける重要な土地、すなわち要地です。

 ここにあるいくつかの拠点を、ロシアに支援されロシアが軍事指導しているアサド政権のシリア軍が占拠することに成功しました。そこは、実はトルコ人にとって兄弟民族であるトルクメン人が住んでいるところであり、この事実と、もう一つは、クルド問題が今回の撃墜事件とやや複雑かつ厄介な関係を持っているというのが、私の見立てです。


●トルコにとっての大きな脅威-クルド人勢力

 
 エルドアン大統領は、もともとトルコの東南部に勢力を持ち、そしてトルコ共和国の安全保障に脅威を与えているとしたクルディスタン労働者党(PKK)というクルド人の政党と和平、講和の交渉を行ってきましたが、今年6月の選挙で敗北したため、クルド人に強硬姿勢を示すことによって再び11月の総選挙で多数を獲得しようというもくろみから、この交渉を打ち切り、武力行使に再度切り替えました。その結果として、11月の選挙には反クルド票を集めて多数を獲得したのです。

 このPKKの出先ともいうべき組織が、シリアにあります。それがPYD(民主連合党、あるいは民主同盟党と訳すことが多い)というグループと、YPG(人民防衛部隊、あるいは人民防衛隊と訳される)という組織ですが、こうしたグループが北シリアに自治国家をデファクト...
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