●トルコ軍によるロシア機撃墜で直接対決の危険性
皆さん、こんにちは。11月24日のトルコ空軍の飛行機によるロシア軍機の撃墜は、シリア問題や現在のロシア・トルコ関係に大変重要な影響を与えています。それのみならず、緊迫感、緊張感はますます募る一方です。後から歴史を回顧したとき、この事件はいわゆる「第2次冷戦」を深めることになった要因であったと言われるかもしれません。トルコの行為は、ロシアからするならば、中東において新しい国のあり方、線引き、ひいては勢力分布の再編、国家の線引きを試みる上で、地政学的な挑戦と受け止められたというのが事実だと思います。
トルコは、エネルギーの観点から見ますとロシアに全面的に依存していると言ってもよく、特に天然ガスについてロシアに多くを負っています。この意味では、トルコはエネルギー的にロシアの属国、あるいは衛星国であるとさえ、時に揶揄されてきました。レジェップ・タイイップ・エルドアン大統領個人について言いましても、大変個性的で誇りの高い大統領であり、名指しで他国の大統領や首相を批判することで知られていましたが、これまでウラジーミル・プーチン大統領を名前を挙げて批判することは、一度もありませんでした。
そのようにロシアとトルコの間にはほとんど懸案もなく友好的な関係があったのに、今回なぜこのような思い切った挙に出たのかというところが、大変重要な点です。つまり、これはイスラム国の問題も絡め、かつシリアのアサド政権のあり方も巻き込んだ形で、ロシアとトルコが直接的に対決するかもしれないという危険性を示したものに他なりません。
●過去におけるロシア軍の領空侵犯
まず今回の事件は、10月初旬にロシアがシリアに対して空爆を開始した後、ロシア軍の飛行機が幾度かトルコの領空を侵犯したという、そういう過去があります。ある時などは、Su‐30(スホイ30)などをはじめとしたロシアの空軍機が5分以上にわたってトルコのF‐16をレーダー照射した(ロックオンした)ということも伝えられています。
トルコとNATO(North Atlantic Treaty Organization 北大西洋条約機構)は、こうした行為についてすこぶる危険であると抗議し、NATO事務総長のイェンス・ストルテンベルグ氏は、トルコ南部への地上軍部隊の派遣さえ提案したほどでした。
ロシアのこうした行為や行動は、東日本大震災を受けた時の日本に対して、日本の航空自衛隊のスクランブル(緊急発進)能力や防空能力を試すために、しきりに領空の近くにまで接近したり、あるいは侵犯しようと試みた行為というものを思い起こさせるものがあります。そして、時に国籍不明機がそうした日本の国境を北から侵犯するということがあったのも、事実です。
ロシアについて具体的に申しますと、2014年の10月下旬にノルウェイ、イギリス、エストニア、ラトビア、リトアニア、トルコ、こういった国々の領空に近接してわざわざ飛行訓練をするという、日本近辺で行っていることと同じような行為をしています。ピョートル大帝以来、ロシアはバルト海を自らの“Mare Nostrum”(われらが海)と、このように考えており、同じような飛行訓練を繰り返しています。2014年8月には、ウクライナ問題の悪化とともに、ロシアの重装備の空挺隊員たちが、東ウクライナ領土に降下した事実を思い起こすことができます。こうした一連の行為というのは、ロシア当局によって偶発的事件とされてきました。
●攻撃に踏み切ったエルドアン大統領の自信
NATOとロシア(旧ソ連邦でありますが、)との間の対決は、冷戦時代すこぶる緊張を極めていましたが、それでもNATOによるロシア軍機の撃墜は1952年を最後にして起きていなかった事実が思い起こされます。つまり、冷戦期のロシアとトルコの関係においても起きなかった事件が、何故にこのエルドアンとプーチンという、その関係自体はさほど悪くもないロシアとトルコの現在の時点において生じたのか、この点が大きな謎なのです。しかも、あるトルコ人の学者の説によりますと、トルコ空軍の飛行機はあらかじめスクランブルし待ち伏せしていた。つまり、国籍不明機、もしくはロシア機と識別してスクランブルをして迎え撃ったというのではなくて、あらかじめ予想される航路に出てスクランブルし、待ち伏せしてSu‐24を落としたという、こういう説もあるわけです。
トルコとNATOは、シリアだけではなくて国会において、ロシアが領空を侵犯した時に重なったために、一種の最後通牒を出して、「ポイント・オブ・ノーリターン」、すなわち、引き返すことのできない地点、つまり、これ以上繰り返したり今後この種の行為が起きたときには撃墜するという可...