今後、日本の賃金は上がるのか
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
賃金の上昇が吉野家のメニューを変えた!
今後、日本の賃金は上がるのか
伊藤元重(東京大学名誉教授)
「このままいくと、1、2年でバブルのピークに匹敵するほど、労働市場の引き締まりが強くなるかもしれない」と、東京大学大学院経済学研究科教授・伊藤元重氏は語る。それが、賃金や企業、経済にどのような影響を及ぼすのか。伊藤氏が、賃金と企業の生産性について語る。
時間:8分16秒
収録日:2016年2月9日
追加日:2016年3月10日
≪全文≫

●現段階で賃金を上げていくのは、簡単な話ではない


 今年、そして今後2、3年で、経済が本格的に回復するかどうかを占う重要なポイントは、賃金がどのように動いていくかだろうと思います。

 消費税が上がり、物価が少し上がり始めていますが、賃金はそれを十分に反映しておらず、実質賃金は下がっています。労働分配率、つまり経済全体のうち、労働者に賃金として支払われる部分もなかなか伸びず、むしろ縮小しており、結果的に消費を抑え込んでいます。賃金が上がらなければ物価の上昇につながりませんから、政府はなんとか賃金を上げたいと考えており、そのためにさまざまな政策を行っています。

 ただ、現実問題として、賃金はなかなか上がらないでしょう。その理由はいくつかあります。まず企業の経営者の立場に立って考えると、経済状況が変わったからといって簡単には賃金を上げにくい。契約、労使交渉で決まるベア、ボーナスなどの正規賃金は、どうしても上がるまでにタイムラグがある。いずれは上げるにしても、今すぐではないという状況にあると思います。

 それから、もう一つ深刻なのは、日本の高齢化が進んでいく中で、団塊の世代が引退の時期に入りつつあることです。大企業は、60歳まではある程度賃金が上がっていくのですが、60歳から65歳までは、雇用は保障されるものの賃金は下がります。年功で高い賃金をもらっている50~60代が減っているため、たとえ1人当たりの賃金が全体的に上がったとしても、日本全体の平均賃金がなかなか上がりにくい状況が生まれています。現段階で賃金を上げていくのは、簡単な話ではないのです。


●非正規の分野で賃金が顕著に上がり始めている


 ただ、ここにきて少し流れが変わってきているかもしれません。深刻な労働力不足のために、特に非正規の分野で賃金が顕著に上がり始めているのです。安倍内閣の成果と言われているのですが、有効求人倍率は、過去23年で一番高い1992年の水準まできています。このままいくと、あと1、2年で、ひょっとしたらバブルのピークに匹敵するほど、労働市場の引き締まりが強くなるかもしれません。その状況を反映して、アルバイト、パート、製造業の期間工の賃金が急速に上がっています。最も市場にセンシティブな部分から賃金が上がってきているのです。

 加えて、日本は少子高齢化のプロセスの中にありま...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「経営ビジネス」でまず見るべき講義シリーズ
エンタテインメントビジネスと人的資本経営(1)ソニー流の多角化経営の真髄
ソニー流「多角化経営」と「人的資本経営」の成功法とは?
水野道訓
東洋の叡智に学ぶ経営の真髄(1)経営とは何かをひと言で?
経営をひと言で?…松下幸之助曰く「2つじゃいけないか」
田口佳史
会社人生「50代の壁」(1)“9の坂”とまさかの坂
サラリーマン人生「50代の壁」を乗り越える生き方
江上剛
メンタルヘルスの現在地とこれから(1)「心を病む」とはどういうことか
なぜ「心の病」が増えている?メンタルヘルスの実態に迫る
斎藤環
イノベーションの本質を考える(1)イノベーションの定義
イノベーションの定義はパフォーマンスの次元が変わること
楠木建
バブル世代の現実とこれからの生き方
バブル世代は「バブル崩壊世代」、苦労の先に見えるものがある
江上剛

人気の講義ランキングTOP10
内側から見たアメリカと日本(6)日本企業の敗因は二つのオウンゴール
日本企業が世界のビジネスに乗り遅れた要因はオウンゴール
島田晴雄
歴史の探り方、活かし方(1)歴史小説と史料探索の基本
日本は素晴らしい歴史史料の宝庫…よい史料の見つけ方とは
中村彰彦
熟睡できる環境・習慣とは(1)熟睡のための条件と認知行動療法
熟睡のために――認知行動療法とポジティブ・ルーティーン
西野精治
習近平―その政治の「核心」とは何か?(1)習近平政権の特徴
習近平への権力集中…習近平思想と中国の夢と強国強軍
小原雅博
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(1)「スキーマ」問題と認知の仕組み
なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み
今井むつみ
戦史に見る意思決定プロセス~日本海軍の決断(1)日本海海戦・東郷平八郎
なぜ東郷平八郎はバルチック艦隊を対馬で迎え撃ったのか?
山下万喜
戦国武将の経済学(1)織田信長の経済政策
織田信長の経済政策…楽市楽座だけではない資金源とは?
小和田哲男
習近平中国の真実…米中関係・台湾問題(7)不動産暴落と企業倒産の内実
不動産暴落、大企業倒産危機…中国経済の苦境の実態とは?
垂秀夫
日本の財政と金融問題の現状(1)財政赤字の何が問題か
日本の財政は本当に悪いのか?将来世代と金利の問題に迫る
木下康司
心と感情の進化(1)そもそも「心と感情」とは何なのか
「心と感情」とは何か、行動生態学から考える大事な問題
長谷川眞理子