●働き方改革について議論する二つの理由
今、「働き方改革」が市場でも国でも非常に大きな話題になっているわけですが、なぜ今、働き方改革ということがこれだけいわれるようになったのか。その理由は二つあると私は思っています。
一つは、働き方について議論することができる余裕が、人間の社会に生まれてきたということです。もう一つは、このままの働き方でやっていくと社会がもたないということで、働き方を改革する必要が今、生まれたということです。この2つの理由があるのではないかと思っています。
●農作物の成長に合わせて働いていた時代
少し説明をさせていただきます。人類の長い歴史の中でつい100年ほど前までは、多くの人が飢えていました。江戸時代の終わりになっても90パーセント以上が農民で、どこの国もそうでした。ただ、農業に従事していない人も少しいたわけですから、農民は自分たちが食べるのに必要な量の他に、そういう人たちも食べられるだけの量も作っていたわけです。
この時の働き方はどういうものかというと、結局は農作物が成長するのに合わせて働く以外になかったのです。だから、朝、稲の見回りをしなければならないし、いもち病のような稲の病気になっていないかどうかを見回る時間も必要です。季節にしても、田植えは種から芽が出て苗が伸びてくる時期が決まっているため、苗代を作ったり、水を引いたりするのは、そうした時期に行う以外になく、選択の余地がなかったのです。ですから、「働き方」を議論する余地はありませんでした。農作物が育つのに合わせて働いて飢えをしのぐ、ということだったわけです。
●工業化で機械に合わせて働く時代へ
それが、明治時代あたりから工業化社会に入っていきます。この時は、機械に合わせて働いていました。昔、労働者は大変に悲惨な生活を送っていて、これは世界中で同じでした。日本でいえば、『あゝ野麦峠』や『女工哀史』などに書かれているような世界です。今では群馬県の富岡製糸場が世界遺産になっていますが、そこはもちろん日本の工業化時代を支えた工場である一方、そこの労働者は、機械に合わせて朝から晩まで働いていたのです。
なぜかというと、人間の働く時間に生産量が比例していたからです。ですから、いかにたくさんの人が長く働くかを考えることが、工業化時代の基本でした。これが機械に合わせて働...