「働き方改革」の課題と可能性―労働力不足を逆手に
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安倍首相の「労働市場改革」が政治的に難しい理由
「働き方改革」の課題と可能性―労働力不足を逆手に
伊藤元重(東京大学名誉教授)
政府が力を入れている「働き方改革」の中で、解雇規制緩和やホワイトカラー・エグゼンプションなど、いろいろな改革案が出てきているが、現実には政治的に難しい面がある。しかし、経済の構造改革を行う上で、労働市場と雇用の調整は最重要課題だ。では何をポイントにすればいいのか。東京大学名誉教授で学習院大学国際社会科学部教授・伊藤元重氏が論じる。
時間:8分02秒
収録日:2017年1月26日
追加日:2017年3月16日
≪全文≫

●安倍首相の掲げる「労働市場改革」が政治的に難しい理由


 今、安倍内閣の下で「働き方改革」がさまざまな形で行われています。その中から、今日は一つの視点を提供したいと思っています。

 日本に限らず、主要国のどこでも、経済の構造改革をするときにはどうしても労働市場改革が中心になるだろうと思います。産業の再編を促し、労働の生産性を上げていくには、やはり雇用調整が非常に重要になるからです。例えば、最近のドイツ経済は好調ぶりが目立っていますが、その大きな理由の一つは、10年以上前にシュレーダー首相の下で行われた「シュレーダー改革」という労働市場改革が功を奏したことです。

 安倍内閣でも、発足後最初に労働市場改革が、非常に重要なアジェンダとして挙げられました。そして、ご案内のように、例えば、解雇規制を緩和するとか、ホワイトカラー・エグゼンプションを行うなど、いろいろな改革案が出てきています。

 私は、こういう改革がもしできるのであればぜひやってほしいと思うのですが、現実には政治的になかなか難しい面があります。例えば、解雇規制を緩和すれば、企業は労働者を解雇しやすくなります。それが、結果的にはより積極的に雇用することにもつながるし、人々の流動化を進めます。このようにいえば非常に好ましく聞こえますが、政治的には「解雇規制緩和」といった途端に、「それは首切り法案だ」と取り沙汰されてしまいます。つまり、労働市場改革を正面から取り上げようとすると、非常に厳しい政治的なプロセスを通らざるを得ず、それによる利害をいろいろな人が受けるということで、労働市場改革は現実的にはなかなか難しいのです。


●縮小する労働市場を労働改革への圧力に使う


 ただ、ここにきて少し流れが変わってきています。それはなぜかというと、安倍内閣の下でマクロ政策効果が上がり、同時に人口減少の中で労働力が少し減ってきていることもあって、労働市場が非常に締まってきているからです。そうした状況下で、派遣、パート、期間労働者、中小企業の労働者など、市場にセンシティブなところを中心に、賃金が上がり始めています。

 実際、労使間でベアを交渉したり、長期的な雇用関係を交渉するような大企業で働いている人は、全体の2~3割もいないわけで、半分以上の労働者は、労働市場の流れにかなり敏感に反応しながら動いています。だから、こ...

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