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賃金格差を縮める「同一労働同一賃金」の必要性

働き方改革―同一労働同一賃金とワークライフバランス

伊藤元重
東京大学名誉教授
情報・テキスト
「第3次安倍改造内閣の目玉の一つは“働き方改革”だ」と、学習院大学国際社会科学部教授・伊藤元重氏は語る。では、具体的にどのような改革が行われようとしているのか。伊藤氏が分かりやすく分析していく。
時間:14:49
収録日:2016/08/25
追加日:2016/09/14
≪全文≫

●賃金格差を縮めるために「同一労働同一賃金」が必要


 安倍内閣の内閣改造で1つの大きな目玉になっているのが「働き方改革」です。加藤勝信さんが担当大臣になったということで、この働き方改革が今後の政権の経済運営、日本経済全体を見る上で重要になってきていると思います。

 日本に限らず、どこの国でも同じことですが、労働者がどこまで活躍できるか、労働の流動性をどこまで高めていくか、どれだけやりがいを持って働けるかということが、経済の一番根幹にある問題です。この問題は、所得の不平等といったさまざまな生活問題のソリューションを提供する「社会政策的な側面」と、人口が減少していく中で労働生産性を上げ、労働力不足を解消していく「成長戦略的な側面」の両面で、経済の活性化がうまくいくかどうかの大きな鍵を握っていると思います。

 働き方改革にはいくつか大きなポイントがあります。一つは、正規労働者と非正規労働者の間で顕著な「賃金格差」を縮めていくことでしょう。これは最近、「同一労働同一賃金」ということで語られることが多いですが、重要な意味を持っています。ご存じのように、日本は長い間「日本的雇用」で、大企業の終身雇用の労働者を中心に経済が回ってきました。高度経済成長時には、それが働く人と企業の関係の安定をもたらし、経済成長の大きな原動力になってきたわけです。しかし、現在は明らかにいくつかの形で制度疲労を起こしています。

 一つは、終身雇用・年功賃金のマイナス面として、多様な労働に対応できないことが問題になっています。つまり、現状の制度では企業のインサイダーになるか、アウトサイダーになるかのどちらかになってしまうため、いったん定年を迎えたシニアや、子育てなどをしながらキャリアを志向している女性、さらに転職を考える男性にとっても、正規と非正規の壁が大きな障害になってきたわけです。できるだけ多くの方々に、多様な労働を多様な形で生きがいを持ってやってもらうためには、従来の終身雇用・年功賃金の外にいる人たちにも、働きに応じて賃金を提供することが重要です。分かりやすくいえば、同じ労働をしているにもかかわらず、正規社員と非正規社員の間に何十パーセントもある格差を是正する必要があるのです。

 実は今、日本の労働市場の状況は、こうした改革を進める上で有利な条件になってきています。人口減少・高齢化の中で労働力不足が深刻になっていて、特にパート、派遣、アルバイトといった非正規労働を中心に賃金が高く上昇しています。希少な労働力を確保するために、企業が賃上げに応じざるを得ない状況にあるのです。このマーケットの流れをうまく活用しながら、一気に同一労働同一賃金を実現する方向に持っていけたらいいのではないかと思います。

 これは他の問題とも関係しています。例えば、「労働の流動化」にもうまく資するでしょう。同一労働同一賃金が進めば進むほど、いわば旧来の「一つの企業に長く勤めていることでそれなりのプレミアムな賃金がもらえる」ということではなく、能力とやる気に応じて給与が払われることになりますから、労働者の流動性がより高まると考えられます。そのためにも、同一労働同一賃金を積極的に進めていくことが重要だろうと思います。

 現実に起こっていることはこうした動きと深い関係がありますが、今回、安倍内閣は最低賃金を大幅に引き上げる決断をしました。これにより結果的には、最低賃金に近い給与条件で働いている人の労働環境がかなり改善されることになります。最低賃金の引き上げは、低所得層の消費を喚起するという意味合いもあるのですが、先ほど申し上げた同一労働同一賃金の動きをさらに早めていくという上でも重要だと思います。


●専業主婦も働く女性も同様の扶養者控除にしたい


 他に重要なのは、これまで比較的労働時間を制限してきた主婦層です。「103万円の壁」、あるいは「130万円の壁」がよくいわれますが、妻がある一定以上の収入を得ると、所得控除・扶養者控除の対象から外れたり、社会保障負担が生じたりするために、主婦層は年収を103万円、あるいは130万円以内に収めて働こうとする動きがこれまでは顕著でした。この制度は一方では、積極的に仕事をしようとしている人と、そうではなくむしろ家庭の中にいようとする人の間に格差、待遇の違いをもたらしているといわれてきました。

 かつては「お父さんが働きに行き、お母さんが家を守る」という家族・労働スタイルが中心でしたが、男女ともにより積極的にキャリアを志向すると同時に、終身雇用の壁を撤廃するとなると、新しい家族・労働スタイルに合わせた社会保障改革や税制改革が重要になってきます。これからの税制改革の一つの焦点は、扶養者控除をより中立的にして、専業主婦も働く女性も同じ...
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