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テロ拡大を放置すれば世界大戦を招きかねない―デフガーン

モスクワ国際安全保障会議(4)イラン・シリアの主張

山内昌之
東京大学名誉教授/歴史学者/武蔵野大学国際総合研究所客員教授
情報・テキスト
G7と中ロでは、シリア内戦への見方は正反対だ。伊勢志摩サミットといわばネガポジの議論が展開された「第5回モスクワ国際安全保障会議」で、当のイラクとシリアの代表は何を語ったのか。「誰が悪いか」の議論を超えて今、世界は何を考えなければならないのかを静かに見つめる歴史学者・山内昌之氏の目が捉えた中東の現在。(全4話中最終話)
時間:09:07
収録日:2016/05/09
追加日:2016/07/07
カテゴリー:
≪全文≫

●イランの主張(1)中東複合危機の「世界大戦」化に対する警告


 皆さん、こんにちは。「第5回モスクワ国際安全保障会議」のお話を続けていますが、特に重要なのはイランの国防大臣とシリアの国防大臣の発言であったと思います。

 イランからは、ホセイン・デフガーン国防軍事大臣が出席しましたが、デフガーンは、イランとロシアが共通のテロ対策を採り、中東でのテロ拡大の阻止に成功したという点で、イランの参加こそロシアにとっても大変重要な結果をもたらしたと語りました。デフガーンの発言で興味深いのは、「今やコーカサス(カフカース)、中央アジア、中国へテロが波及し拡大している」という指摘でした。すなわち、テロは今や、シリア、イラク、アフガニスタン、イエメン、北アフリカ各国、そして、リビア、ヨーロッパに集中して起き、そしてそこで発展している、という認識でした。

 こういう意味において、現在シリアは、他の国々と違って、外国からの介入や干渉を実力で粉砕し、阻止しようとしている。こういう点でシリアは注目すべきことだと、シリアを援助しているイランの国防大臣は述べたわけです。現在起きている状況をそのまま放置すれば、それはグローバルな戦争、すなわちグローバルウォー(あえて訳せば世界大戦)をもたらすかもしれないというのです。したがって、私がこの間、書物やこの10MTVでもお話ししたように、世界が第三次世界大戦に向かう危険性があるという認識と似たものを、イランの国防大臣であるデフガーンは持っているということです。


●イランの主張(2):元凶は米欧各国、サウジ、シオニスト


 このように全世界は不安の下にあるわけですが、こうなったのも、元はといえば、ロシアに対して制裁を加えた各国、最近では今年(2016年)1月にシーア派の指導者を処刑することによってイランとの関係を劇化させたサウジアラビアにこそ責任があると、デフガーンは指摘しました。また、これに対してイランは、人道的な危機を一貫して援助し、既に今日あるような危機や悲劇を予測し警告していたではないか、と。つまり、シリアにおいてアサドは悪くない、アサドを攻撃すれば必ずテロ勢力が伸びてくると警告していたではないか、と言いたいわけです。

 また、彼らイラン人は「シオニスト」あるいは「シオニスト組織」という言葉を用います。これは言うまでもなく、イスラエルであり、イスラエルのパレスチナ占領、パレスチナ国家の建設を妨げる占領したシオニスト勢力という言い方がまだ行われているわけです。いずれにしても、こうしたシオニストは、シリアに対して、あたかもアメリカの東アジア、ことに朝鮮半島に対する幅広いコワリション(連合体)とプレゼンスを持っているように、このシオニストの存在が中東地域をはるかに難しくする要因になっているという主張でした。

 イランの政策は、地元の軍事的な安定と安全保障を確立しようとしているものであって、決して攻撃的なものではない、イランはどの国にも脅威を与えていないという、いつもながらのイランの非常に主観的な主張が繰り返されました。

 各国の主権をイランは守っている、イエメンやシリアの人民は実際に独立と安定を示しているではないか、ロシアとシリアの国家としての正規軍(地上軍兵力)はテロリストと戦っているではないかと自画自賛もしました。レバノンのヒズボラ、あるいはイラクの関連したシーア派組織はいつもイランが支配して支援している存在である。それに対してシオニスト体制すなわちイスラエルは、イランにとって今やサイバー空間における大変大きな脅威になっているという批判です。

 また、イランはいつも人的資源国であり、一番高いレベルで国際平和や発展に貢献しているが、軍事的には他の国々と比べてはるかに劣位にあるという主張もありました。昨年、シリア、中央アジアにおいてテロが発展した時、イランは反テロの統一や団結において大きな役割を果たしたというのです。イランの立場がこのようなものであることはおよそ察しがついたと思います。


●シリアの主張:新しい形の「侵略」が行われている


 続いて、イランと重要な同盟関係にあるシリアからは、マホムド・シャワーという国防大臣が参加して、エスニックかつイスラム的な問題こそが中東紛争の原因だと語りました。シャワー国防大臣は、「複合的戦争(マルチプルウォー)」という表現を使って、イスラエルとアラブの間に繰り返されてきた中東戦争、イランとイラクの間のイライラ戦争、そしてレバノンで南のヒズボラを中心にそれをたたいたイスラエルの数次にわたるレバノン戦争。それから湾岸戦争やイラク戦争といったアメリカが直接関与した戦争についても触れました。

 いずれにしても中東問題は冷戦期にさかのぼるというのがシャワー...
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