●存在感を増す中国。常万全国防相が核テロに警鐘
皆さん、こんにちは。モスクワで開かれた「第5回国際安全保障会議」の話を続けます。
そこでは、中国の存在感が圧倒的に目立ちました。誇張して言えばロシア側をしのぐのではないかとも思いかねないような、人民解放軍の軍服を着た大変多くの中国人たちが会場のあちらこちらで目につき、私のおおよその見当では70人を下らず100人に届かないとおぼしき多数の中国人代表団の存在が目立ちました。
開会セッションに引き続き開かれた「地球規模の安全保障への主要な脅威としてのテロリズム」という全体セッションにおいて、常万全国防相が登壇するに及んで、人々の関心も高まりました。常万全は、「核テロリズムの脅威が高まっている」という大変重要な指摘をしました。この核テロリズムとは、ISやヌスラやアルカイダが核爆弾あるいは核物質を入手することによって、大変危険な、国家間では制御できない、核によるテロを行うことを指したわけです。併せて二つ目には、こうした核テロなどを技術として習得したテロ組織の戦闘員が国境の外から自分たちの母国へ戻ってくるという危険性があるということに注意を向けていました。これは中国にとってはウイグル、ロシアにとってはチェチェンを意味するものと思われます。
●新疆ウイグル自治区に関する西側諸国への批判
常万全は、ロシアのセルゲイ・ショイグ国防大臣やセルゲイ・ラブロフ外務大臣同様、テロについて西側諸国、米欧はダブルスタンダードであると指摘しました。すなわち、西側諸国はあたかも「良いテロ」と「悪いテロ」を区別するようなところがあるけれども、テロには良いテロや悪いテロという差はないということです。ここで中国が、新疆ウイグル自治区で活動している東トルキスタンイスラム民族運動(ETIM)を念頭に置いていることは言うまでもありません。このETIMに対して、アメリカ、ヨーロッパの主要国、そしてトルコなどにおいては、彼らの運動が中華人民共和国に対する抵抗権、すなわち民族自決権のあらわれだとして、活動の拠点を開設したり、あるいは印刷物の刊行、発行を認めたりする傾向があることに対して、それとなく批判したわけです。常万全は、エスニックアイデンティティと宗教的なアイデンティティが重なるような、エスニックかつ宗教的なアイデンティティが危険であるという側面を強調したのです。これは何を指しているかというと、ウイグル民族運動すなわち民族自決分離主義としてのウイグルは、同時にイスラム共同体に属している。この二つが重なることによって、危険な中国からの分離運動がもたらされていることに対する批判でした。
いずれにせよ、反テロの明文で他の国の主権や国際安全保障に反対してはならないという常万全の発言は、明らかに米欧のスタンスを示しています。反テロとは包括的である。比喩的に言えば、良いテロや悪いテロというものはなく、全て包括的な参加が必要である。中国はむしろテロの犠牲者である、と。この点を強調しているわけです。中国が言いたいのは、東トルキスタンすなわち新疆ウイグル自治区におけるテロ勢力や分離派の期待に西側が応じてはならないということであり、国際的な反テロ活動を終始一貫したものとして、コンシステンシー(一貫性)とインテグリティ(全体性)の下に捉える必要があるという主張です。
●中ロの軍事協力が強まっている
常万全の表現でうまい表現だと思ったところがあります。それは、「テロとは文明のがんである」という表現です。中国は文明のがんであるテロと戦っているわけで、その先頭に立つのが軍であるというものでした。ショイグと常万全は国務委員でもあり、一般の閣僚よりも高い地位にある人物ですが、国務委員でもある常万全は、27日に会議に出席中、ショイグと会談して、ロシアと中国は両国の軍事協力に関して重要なプロジェクトを推し進めており、上海協力機構(SCO)の国防安全協力計画も実施し、国際的または地域的に重要な問題における交流を強化していると語り、両国関係を絶えず維持することが重要だと表現しました。
また、これに応じてショイグも、今年2016年に予定されている合同軍事演習などを通して、両国軍の軍事協力を実務的に進めること、それをますますレベルアップさせる重要性を強調していたことが印象に残りました。
今日はこれで失礼いたします。