●ポンドと円は、ドルを間に挟んで真逆の動きを示す
本日最後の話題は、ポンド安がドル円に及ぼす影響ということになってきます。
今見ていただいているグラフは、昨年12月から今年4月15日までの、ポンドの対米ドル相場とドル円相場の相関図を示しています。なぜこの期間の相関関係を取っているのかというと、この期間のイギリスのソブリンCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)が関係してきます。CDSは、イギリスの国債が万一デフォルトしたらどうなるのかを表す一種の保険料のようなものと考えていいでしょう。この期間に、イギリスのCDSは、ヨーロッパ大陸の特にドイツなどと比べると明確に上昇を示しました。つまり、EU離脱問題に対してマーケットがナーバスになっていたのがこの期間だと考えられるということです。
この間、ポンドがドルに対して上昇すると、円は上がりました。これは、ドルがポンドに対して下落すると、ドルは円に対して上昇する。逆にポンドがドルに対して下落すると、ドルは円に対して下落する。要するに、ドルを軸に考えた場合、英国ポンドと円に対する反応は正反対に出るということです。
その結果として、ポンドドルとドル円は、非常に分かりやすい「順相関」を持つことがお分かりいただけると思います。
●シティグループが予測したドル円:ポンド円の動き
われわれのチームがEU離脱国民投票の前に想定したのは、「もし残留が決まったら、ポンドは対米ドルで1.53ぐらいまで戻るだろう」という見方でした。一方で、「離脱が決まったら、1ポンド=1.3ドルぐらいまで下がるだろう」と見ていました。この相関からすると、ドル円の推計値が大体101円、ポンド円が132円になります。ちょうど今は、この水準にあるわけです。
平たくいうと、ポンドが1.3ドルまで下がるという見方が正しかったという前提に立てば、ドル円の水準も今ちょうど101円ぐらいで、ポンド円・ドル円ともに、ほぼ予想したドンピシャの水準に来ているということになります。
ただ、こういった動きが予想より早く起こったものですから、私が所属しているシティグループのG10FXストラテジー・チームとしては、向こう数カ月中にポンドドルがほとんど1.25ドルぐらいまで下がるリスクが出てきたと見込んでいます。
この相関図からいえば、その場合のドル円の適正値は約97円になり、両者を掛け算すると、ポンド円では121円ということになってくるわけです。
●ブレクジットとドル円:ポンド円の相関するメカニズム
このメカニズムがどうなっているのかをご説明しましょう。基本的には、ブレクジットになるとイギリスが混乱して、イングランド銀行(イギリス中央銀行)が金融緩和をする。その結果、ポンドが安くなって、ユーロが上昇する。なおかつイギリスの混乱によって、ヨーロッパの経済もやや減速する。このようなポンドに対するユーロ高と、ヨーロッパの景気減速懸念を受けて、ECB(欧州中央銀行)が金融緩和をする。その結果、ユーロが対米ドルで下落する。逆にいうと、ドルが対ユーロ・対英ポンドで上昇する。
ところが、あまりにも強いドル高は、アメリカ経済にとってのリスクを意味します。そうなると、アメリカの中央銀行に当たるFRBが金融引き締めを先送りして緩和姿勢を示す。その結果、ユーロやポンドに対するドル高は続きますが、それ以外の通貨、特に円に対してはドルが安くなり、円が上昇する。この相関のバックグラウンドとしては、おそらくそのような背景があるのだろうと考えています。
●ブレクジット翌日に出された二つの共同声明
ただし、ドル円が100円を割り込んだり、ユーロ円で110円、ポンド円で130円などの重要な水準を割り込んでいくことになると、日本政府すなわちアベノミクスにとっても非常に苦しいことになってきます。ある程度介入をしてでも円高を止める必要性に迫られてくるのではないかと考えています。
この観点からすると、6月23日のイギリスの国民投票の翌日に、麻生太郎財務大臣と黒田東彦日銀総裁の発表した共同声明が注目されます。これは日本語でいうと「談話」ですが、英語では「Joint Statement」で、1997年の日本の金融危機以来初めての共同声明なので、非常に覚悟をもって出されている可能性が高いわけです。
なおかつ6月24日には、G7諸国からも同時に共同声明が出されています。この声明文の中でも「あまりにもvolatile(気まぐれ、不安定)な為替相場の動きは、経済にはマイナスだ」と明記されています。
これは何を意味しているのでしょうか。日本政府は円売り介入に非常に慎重な姿勢を貫いてきましたが、いよいよ必要になれば円売り介入の可能性が...