テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
ログイン 会員登録 テンミニッツTVとは
テンミニッツTVは、有識者の生の声を10分間で伝える新しい教養動画メディアです。
すでにご登録済みの方は
このエントリーをはてなブックマークに追加

ブレグジットに至ったのはEUのアウトサイダーだから!?

ブレグジットと英ポンド相場(1)EU離脱を選択した背景

高島修
シティグループ証券 チーフFXストラテジスト
情報・テキスト
2016年6月、国民投票の翌週にイギリスを訪れたシティグループ証券チーフFXストラテジスト・高島修氏。ロンドンの金融街・シティをはじめ、現地の投資家や日系企業、金融機関と、「イギリスのEU離脱問題」について会話をしたという。なぜイギリス国民はEU離脱を選択したのか。高島氏は、彼らの潜在的な問題意識として欧州におけるドイツの影響力の拡大が背景にあるのではと語る。これは、イギリスがユーロに加盟していないEUのアウトサイダー的立場にあることとも関係がある。高島氏が為替面から見た「ブレグジット」問題の影響について解説する。(全4話中第1話)
時間:13:27
収録日:2016/07/06
追加日:2016/07/10
≪全文≫

●ブレグジット問題を考える4つの観点


 皆さん、こんにちは。シティグループ証券で為替相場の市場調査を担当しております高島です。今日は、イギリスのブレグジット(BREXIT)、つまりイギリスが欧州連合であるEUから離脱するという問題についてお話ししようと考えています。

 今回、少々長くなりますが4つの観点を考えています。まず1点はこういったブレグジットに至った時代背景と今後の展望についてで、2点目は、英国ポンドが抱える長期的な問題、3点目は英ポンドが中・短期的にどう動くかについてです。最後の4点目は、この問題に伴って円高が進んでいますから、円高の行方を少し占ってみたいと考えています。


●ブレグジットの背景となるイギリス国民の明らかな問題意識


 まず、ブレグジット、(イギリスの欧州連合からの離脱)に至った背景からお話しします。実は私自身、たまたまだったのですが6月の最終週にモスクワとロンドンへの出張がセットされており、このブレグジットの国民投票の翌週にイギリスを訪れる機会がありました。

 そこで、半ば笑い話になるのですが、非常に印象的だった話があります。移動のために乗ったタクシーのドライバーさんの一人がとても陽気な人で、「どこから来たんだ? 日本からか」と話しかけてきました。「このシーズンのイギリスはすごくいい時期だ。ゴルフもいいし、ウィンブルドンテニスも始まったし、セールスシーズンだからポンド安の今、外国人には格別にいい時だろう」と言われたので、ポンドが安くなるとともに円高になったこともあり、「EU離脱を問う国民投票の後、日本人にとっては物価が安く感じるね」と私が答えたところ、そのドライバーさんはさまざまな話を熱弁したのです。

 彼は50代くらいの白人で、おそらく離脱派の人だったのではと思うのですが、彼が一番強調していたのは、イギリスのことはイギリスが決めるべきだ、ということでした。つまり、EUのテクノクラート(官僚)が決めるのではなく、イギリス国民が決めるべきだ、ということをしきりに強調していました。これは民主主義の伝統もあると思います。次に「町中を見てみなさい。走っている車は皆、ベンツやBMWといったドイツ車だ。それじゃいけない」というようなことを言っていました。つまり貿易問題ということです。

 また、これが最大の問題ともいわれていますが、3つ目としては移民の問題を挙げていました。特にポーランドなどが加盟した後のEU拡大以降、イギリスに増えてきた大陸からの移民によって、イギリスの社会保障制度が、いわゆるただ乗り、フリーライドされているという問題意識です。そして、移民問題とは若干違うのですが、最近のテロに絡んだ難民問題も加わっていると思います。

 このような順番で問題点を指摘していて、これがおそらくEU離脱派の方々の問題意識の順番とも合っているのではないかと思いました。


●潜在的問題-ドイツの影響力とEUのアウトサイダー的存在


 そんな中、私には前々から思っていたことが一つあります。それは一般的にいわれていることでもありませんし、シティグループのオフィシャルビューでもありません。ですが、イギリスの人たちの潜在的な問題意識として、彼ら自身が気が付かないけれども、おそらくくすぶっている問題だろうと思われることで、それはヨーロッパにおけるドイツの影響力が大きくなってきていることではないか、ということです。

 もともとEUは、第二次世界大戦の後、欧州石炭鉄鋼共同体などでヨーロッパを統合していく動きから始まったものなのですが、この動きはフランスが主導してきました。ところが1999年にユーロを導入し、しばらくは比較的うまくいっていましたが、2010年、11年の欧州ソブリン危機が勃発したあたりから、さまざまな問題を解決するに当たってドイツの発言力が非常に強くなっていったのです。ですから、イギリスからしてみると、もともとはフランス主導だと思っていたEUがユーロ導入をきっかけに、知らない間にドイツ主導に変貌していた、ということです。ドイツはイギリスにとって、非常にくみしにくい相手ということになるわけです。

 こういった中、ユーロがうまくいっていて、イギリスが将来的にユーロに加盟する選択肢があるのならば、少し無理をしてでもアウトサイダーのままEUに留まるという選択肢があったと思います。ですが、2010年、11年の欧州ソブリン危機を見て、イギリスがユーロに加盟するという可能性は、かなり低くなったわけです。そうすると、「ユーロに加盟しないEU加盟国」というアウトサイダーの立場がずっと続くことになるわけで、そういった点も今回、イギリス国民がEUからの離脱を潜在的に意識し始めた背景にあるのではないだろうかと、個人的には考えて...
テキスト全文を読む
(1カ月無料で登録)
会員登録すると資料をご覧いただくことができます。