モノづくりは、モノをつくることか
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
80年代からファブレスメーカーだったナイキ
モノづくりは、モノをつくることか
経営ビジネス
曽根泰教(慶應義塾大学名誉教授/テンミニッツ・アカデミー副座長)
日本は「モノづくり」の国だから、「モノづくり」をさらに磨き上げ、推進させることが国の発展につながると考えている人は多い。そのような人にとって、政治学者で慶應義塾大学大学院教授・曽根泰教氏の「モノづくりは、モノをつくることか」という言葉は、盲点を突く問いかけではないだろうか。「イノベーションとは何か」にもつながる、日本のモノづくり産業のジレンマが、明快に見えてくる。
時間:7分38秒
収録日:2016年7月15日
追加日:2016年7月15日
≪全文≫

●ナイキ本社を30年前に訪れた国務省プログラムの団体の驚き


 「モノづくりは、モノをつくることか」。奇妙なタイトルのお話をします。「モノづくりはモノをつくること」だと思い込んでいる人はたくさんいますが、私の話は少し古い時代から始めます。

 随分昔になりますが、1986年にナイキの本社を訪れたことがあります。これは、団体のグループで行ったので、個人で行ったわけではありません。

 ナイキの本社は、オレゴン州ポートランドから1時間ぐらい行ったビーバートンというところにありました。そこまで行った連中は皆「ナイキの新しいタイプの靴でも買おうか」というつもりだったのですが、現地に着いて案内の人に言われた最初の言葉に、皆びっくりしてしまいました。

 「ナイキは、北米では一足も靴をつくっていません」

 「あ、そうなのか」

 「ナイキって、靴をつくっている会社ではなかったのか」とは思いませんでしたが、「少なくともアメリカではつくっていないのだな」と、皆が驚いたのです。


●ドイツ製品に対抗するための、ナイキの変転


 その時にもう一つ、面白いことを言われました。ナイキではスタンフォード大学の出身者が経営に加わっていますが、彼らの考えは「ドイツのアディダスに対抗できる良い商品を、ナイキでつくる」ということなのだそうです。それで、「ドイツに対抗するためには日本でしょう」「車の例を見れば明らかですよ」というわけですね。

 当時、ナイキは現在のアシックスであるオニツカと関係がありました。それで、多分最初はオニツカでつくらせようと思ったのではないかと思いますが、結局別のアサヒシューズの会社(アサヒコーポレーション)でつくりました。

 しかし、私が本社へ行った86年には、すでに韓国での製造が始まっていました。ですから、日本からの注文はもちろん本社宛に出しますが、実際の製造は韓国です。韓国から日本への輸出製品というかたちでナイキの靴があった時代でした。ナイキ製品をつくる場所はどんどん移り変わり、中国になったりベトナムになったりして、今はまた別のところに移っているようですね。


●「モノをつくらないモノづくりの会社」ばかり


 このようなことから考えると、ナイキはまさに「モノをつくらないモノづくりの会社」なのです。

 では、本社機能とは何かというと、まさしく経営戦略であ...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「経営ビジネス」でまず見るべき講義シリーズ
「重要思考」で考え、伝え、聴き、議論する(1)「重要思考」のエッセンス
重要思考とは?「一瞬で大切なことを伝える技術」を学ぶ
三谷宏治
メンタルヘルスの現在地とこれから(1)「心を病む」とはどういうことか
なぜ「心の病」が増えている?メンタルヘルスの実態に迫る
斎藤環
イノベーションの本質を考える(1)イノベーションの定義
イノベーションの定義はパフォーマンスの次元が変わること
楠木建
会社人生「50代の壁」(1)“9の坂”とまさかの坂
サラリーマン人生「50代の壁」を乗り越える生き方
江上剛
重職心得箇条~管理職は何をなすべきか(1)時代に請われ、時代に応えた佐藤一斎
部下を育てるには、まず佐藤一斎に学べ!
田口佳史
ストーリーとしての競争戦略(1)当たり前の重要さ
柳井正氏の年度方針「儲ける」は商売の本筋
楠木建

人気の講義ランキングTOP10
続・日本人の「所得の謎」徹底分析(1)各国の財政と国民負担
日本と各国の比較…税負担は低いが社会保障の負担は高い
養田功一郎
経験学習を促すリーダーシップ(2)経験から学ぶ力
米長邦雄のアンラーニング、弟子の弟子になってV字成長
松尾睦
海底の仕組みと地球のメカニズム(1)海底の生まれるところ
地球上の火山活動の8割を占める「中央海嶺」とは何か
沖野郷子
数学と音楽の不思議な関係(4)STEAM教育でつくる喜びを全ての人に
世界で最もクリエイティブな国は? STEAM教育が広がる理由
中島さち子
外交とは何か~不戦不敗の要諦を問う(1)著書『外交とは何か』に込めた思い
外交とは何か…いかに軍事・内政と連動し国益を最大化するか
小原雅博
「集権と分権」から考える日本の核心(5)島国という地理的条件と高い森林率
各々の地でそれぞれ勝手に…森林率が高い島国・日本の特徴
片山杜秀
未来を知るための宇宙開発の歴史(9)宇宙開発を継続するための国際月探査
「国際月探査」とは?アルテミス合意と月探査の意味
川口淳一郎
第2の人生を明るくする労働市場改革(1)日本の労働市場が抱える問題
シニアの雇用、正規・非正規の格差…日本の労働市場の問題
宮本弘曉
大統領に告ぐ…硫黄島からの手紙の真実(4)百年後の日本人のために
百年後の日本人のために、共に玉砕する仲間たちのために
門田隆将
「アカデメイア」から考える学びの意義(2)プラトンの学園アカデメイア
プラトン「アカデメイア」の本質は自由な議論と哲学的探究
納富信留