●ナイキ本社を30年前に訪れた国務省プログラムの団体の驚き
「モノづくりは、モノをつくることか」。奇妙なタイトルのお話をします。「モノづくりはモノをつくること」だと思い込んでいる人はたくさんいますが、私の話は少し古い時代から始めます。
随分昔になりますが、1986年にナイキの本社を訪れたことがあります。これは、団体のグループで行ったので、個人で行ったわけではありません。
ナイキの本社は、オレゴン州ポートランドから1時間ぐらい行ったビーバートンというところにありました。そこまで行った連中は皆「ナイキの新しいタイプの靴でも買おうか」というつもりだったのですが、現地に着いて案内の人に言われた最初の言葉に、皆びっくりしてしまいました。
「ナイキは、北米では一足も靴をつくっていません」
「あ、そうなのか」
「ナイキって、靴をつくっている会社ではなかったのか」とは思いませんでしたが、「少なくともアメリカではつくっていないのだな」と、皆が驚いたのです。
●ドイツ製品に対抗するための、ナイキの変転
その時にもう一つ、面白いことを言われました。ナイキではスタンフォード大学の出身者が経営に加わっていますが、彼らの考えは「ドイツのアディダスに対抗できる良い商品を、ナイキでつくる」ということなのだそうです。それで、「ドイツに対抗するためには日本でしょう」「車の例を見れば明らかですよ」というわけですね。
当時、ナイキは現在のアシックスであるオニツカと関係がありました。それで、多分最初はオニツカでつくらせようと思ったのではないかと思いますが、結局別のアサヒシューズの会社(アサヒコーポレーション)でつくりました。
しかし、私が本社へ行った86年には、すでに韓国での製造が始まっていました。ですから、日本からの注文はもちろん本社宛に出しますが、実際の製造は韓国です。韓国から日本への輸出製品というかたちでナイキの靴があった時代でした。ナイキ製品をつくる場所はどんどん移り変わり、中国になったりベトナムになったりして、今はまた別のところに移っているようですね。
●「モノをつくらないモノづくりの会社」ばかり
このようなことから考えると、ナイキはまさに「モノをつくらないモノづくりの会社」なのです。
では、本社機能とは何かというと、まさしく経営戦略であり、企画・宣伝・広報・法務であるということになります。靴を設計する企画能力やデザイン能力は必要な要素ですから、靴づくりはしているのですが、そのための自前の工場をアメリカに持たなくても、モノづくりは十分できる。そういう話です。
さらに、今のアメリカを代表する会社はいろいろありますが、私はアマゾン、グーグル、フェイスブック、アップルだろうと考えています。イノベーションの話でも触れましたが、イノベーションを「技術革新」と訳すと、「そんな会社はアメリカにはないではないか」という話になるわけです。
日本人が考えるような技術を持っているのは、グーグルだけだと思います。グーグルはある意味で面白い会社です。「あれは大学の実験室をビジネスにしているのだろう」と、私は思っているぐらいです。しかし、他を見ると、アマゾンもフェイスブックもアップルもそうではない。アップルはモノをつくってはいますが、iPodやiPadを「売る」側面に力が入っています。
●アマゾンは何で稼ぎ、アップルはどこでもうけているか
アマゾンについては、いつだったか日本法人の社長にお話を伺った時に私が最初に言ったのは、「私だったらアマゾンという会社はやりません」という言葉でした。なぜかというと、「配送センターに投資をして大量の在庫を抱え、しかも配送料無料で顧客に届けるなどということは無謀である」ということです。普通、アメリカの会社は皆、短期決算による短期収益を目指すと言われていますが、アマゾンはアメリカでも日本でも、最初の7年ぐらいは赤字だったわけです。
さらにもう一つ言えば、結局アマゾンとは一体何で稼いでいる会社なのでしょうか。これは謎解きのようなものなので、ご興味のある方は、アマゾンがどこで何によって稼いでいるかを調べられるといいと思います。
そのような意味で言いますと、アップルもフェイスブックもアマゾンも、ライバル会社を買収します。つまりアップルを例にとれば、つくっているモデルやモノ自体は自前ですが、部品は日本製や台湾製や中国製のものを集めてくる。しかし、そこに能力があり、デザインがいいから、人は買うわけです。粗利が非常に高いことも、皆さんはきっとご存じでしょう。
部品会社の場合は、薄い利益でしかない上に、相当変動する需要が相手です。シャープの経営が行き詰まった一つの理由は、アップルを相...