●予想を裏切り続けてきたここまでの大統領選
今、アメリカ大統領選が進行中ですが、今回の大統領選はいまだかつてなく多くの人の予想を裏切って、不思議なことがたくさんあります。一般の人だけではなく専門家、特に詳しく過去の歴史を知っている人にとって、思わぬことが起きたということです。
その一つはドナルド・トランプ氏が、共和党の正式な大統領候補となっているということ。ヒラリー・クリントン氏は簡単に勝つだろうと思われていたのですが、民主党の中でも苦戦し、最後までなかなか正式な大統領候補として決まらなかったこと。そして、ひょっとしたら「トランプ大統領」という可能性があるという思いがけないこと、などです。
また、このアメリカの大統領選はかなり評価の高い制度だったのですが、どうも反省材料がたくさんあるようです。そのことを話すためには、「そもそも大統領制とは何か」「議院内閣制とどう違うのか」というところを押えなければなりません。制度論を議論すると大変長くなりますので、かいつまんでポイントだけ申し上げます。
●暴言続きでも支持率を上げたトランプ
まず、トランプ氏が候補者となっているという点について。これはトランプという人の評価とも関わるわけですが、人々はよく「不動産王」という言い方をします。しかし、本当に彼は不動産でかせいだのでしょうか。かつてあったトランプ・シャトルという飛行機会社はもうありませんし、彼は限りなく失敗し、破産もしているわけです。ですから、最初にトランプが出てきた時には記念受験ではないのですが、「この大統領選挙で名前を売って商売の足しにするのではないか」という程度にしか、皆考えていませんでした。
そして、それなら合点がいくのですが、もう一つ、これまでテンミニッツTVでもずっと申し上げているトランプ氏の「暴言」という問題があります。アメリカでいうPC(ポリティカル・コレクトネス)のことですが、このPC違反を繰り返していても、ますます彼への支持、人気が高まっているのです。
●メディア利用の上手さがトランプの武器
これは実はメディアとの関係が非常に重要で、トランプ氏はとにかくニュースになる、あるいは視聴率をかせげる、 何を言い出すか分からない、ということで、その日のニュースの時間を彼のために空けるわけです。つまりメディア各社は、彼を報道して視聴率をかせぐため、内容を問わず彼に飛び付いたということです。トランプ側からいえば、自前の資金を使ってキャンペーンを張らなくても、マスコミが報道をしてくれたということになります。
また、トランプ氏には根強い支持がありました。特に低学歴・低所得層の白人からです。どちらかというとアメリカには社会的マイノリティの議論がずっとあったわけですが、その中で唯一批判する対象が白人男性だったわけです。白人男性はマイノリティではないため、どこからも支援、支持されません。かつ低所得・低学歴であるということで、非常に不満や鬱憤がたまっていました。こういう人たちがトランプの根強い支持者であったのですが、それだけで全国規模の大統領候補になるとは考えられません。トランプ氏によるメディアを使った非常に巧みなエンターテナーの手法が、随所に生きていたと思います。ある意味で、つかみがいい、食いつきがいいような話題を次から次へ出していったからです。
●「トランプが勝つ」という政治リスク
普通にいけば、トランプ氏が勝つはずはないと思います。ところが、です。アメリカには世論調査がいくつかあり、しかも非常に頻繁に行われているのですが、共和党大会の頃は確かにヒラリー氏をしのぎました。現在ではポイントとしては、ヒラリー氏の方がやや支持を伸ばしているのですが、ただ、これにはまだ誤差の範囲です。誤差とはどういうことかというと、ヒラリー氏の方にスキャンダルがあったり何か失言があったりすると、ひっくり返る可能性があるという意味で、トランプ氏の可能性が消えていないのです。つまり、正式の大統領候補である以上、トランプ氏にはまだ勝つチャンスがあるのです。
そういう意味で、「勝つ」ということを「リスク」という言い方をすると、それは一体何なのかと思うかもしれませんが、イギリスのEU離脱と同じようにアメリカでトランプ氏が勝つということは、ある意味で政治リスクになります。政治リスクの話は改めて申し上げる機会があると思いますが、先進国における民主的な選挙は政治リスクではないわけです。単なる政権交代なのですが、これがリスクであると思われるくらい重要なことが、今回起きているのです。
普通に考えれば、ヒラリー氏が勝つだろうといわれていて、民主党大会以降、トランプ氏の失言もあって、若いミレニアム世代もトランプ氏よりヒラリー氏を支持し...