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NATO国境での軍事演習から見えてくるロシア外交の特性

プーチンのユーラシア戦略(2)軍事演習とロシア外交

山内昌之
東京大学名誉教授/歴史学者/武蔵野大学国際総合研究所客員教授
概要・テキスト
歴史学者・山内昌之氏によるロシア・プーチン大統領のユーラシア戦略に関する地政学レクチャー第2弾。今回は、ロシアが主導権を握るCSTO(集団安全保障条約機構)の軍事演習について取り上げるが、前回挙げた「カスピ海」「イラン」を含め、ロシアの動きをつぶさに観察すると、ロシア外交の特性が見えてくる。(全2話中第2話)
時間:11:27
収録日:2016/09/14
追加日:2016/10/03
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≪全文≫

●CSTOはロシア政府主導の集団安全保障組織


 皆さん、こんにちは。前回、プーチン大統領のユーラシア戦略、ユーラシア政策というものを考える例として、かりそめに、3つのキーワード、ヒントを出しました。1つはカスピ海、2つ目はイラン、もう少し具体的に言うとハマダーンのイラン空軍基地で、3番目が今日詳しくお話しするNATOの国境に沿った軍事演習です。

 ロシアの各軍は8月15日に始まる週において、NATOの国境に沿って、最初の集団安全保障条約機構の軍事訓練を行いました。集団安全保障条約機構は、あまり耳慣れないかもしれませんが、格別に地域名や国の名前は付いておらず、CSTO(Collective Security Treaty Organization)と略される名称しか持っておりません。これは何かというと、プーチン大統領が指導するロシア政府主導の集団安全保障組織です。そこには、中央アジアのカザフスタン、キルギスタン、タジキスタン、さらに加えてアルメニアとベラルーシといった5カ国が、ロシアとともに加入しています。


●CSTOの軍事演習の注目点


 軍事演習そのものは、決して珍しいものではありませんが、CSTOという組織の名が日本ではあまり知られていません。そして、このあまり知られていないCSTOの演習が、バルト諸国に近いロシア連邦のプスコフ州で行われました。プスコフ州はまさにNATOのメンバーでもあるバルト三国のうち、エストニアとラトビアの国境に近いということで、この点が私たちにとって関心をそそるわけです。

 NATOの国境にそれほど近いところで演習したのは、あまり例がありません。ヨーロッパの各政府を驚かせたのは、バルト諸国に対してロシアから明白な、そして好戦的なレトリックともいうべきさまざまな挨拶、アドレスが送られたということです。何といってもこのバルト三国は旧ソ連でした。この旧ソ連の一員であったバルト三国に対して、あるいはそれを介して間接的にNATOに対し、ロシアは旧ソ連の遺産を継承して、「自由な判断で、自由な場所で、そして自由な時間に軍事演習をする権利を持っている」ということを示したわけです。もう一つの驚きは、かつて旧ソ連を構成し、1991年のソ連の解体とともにソ連を脱退することになった国々の一部が、この演習に参加したことです。

 つまり、とにも...
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