●潜航計画は、海底地形図の入手から
まず、r2D4がどれだけ潜ったかですが、この広い海の中で1回に最大60キロメートル、せいぜい50キロメートルほどしか潜っていないので、そんなに多くは潜っていません。ここでテストして、ここで何回か潜って、ここは1回だけ潜りました。同時にいろいろな調査をしています。
このようなところに行くときに、われわれは何を考えて行くかというと、いろいろ準備をします。まず、できるだけ詳細な海底地形図がなければなりません。そして、何のために潜航するかという潜航目的をクリアにして、ロボットの性能に応じて何ができるかを計画します。それから、重要なのは、何らかの理由でロボットが途中で潜航を中断した場合にも、きちんと一定の成果が得られること。つまり、潜航が最初から最後まで全部終わらなければ成功ではないということではなく、途中でも成果が上がるプランを目指すということです。
いろいろと苦労しましたが、まず最初にロジェ海台への潜航を説明します。これがロジェ海台です。この辺りは非常に複雑な地形をしています。海嶺系の中心はここを走っているのですが、随所にボツボツと丸い岩や何かがあって、地形はとても複雑です。その広がって拡大軸になっているところの海台を狙って、29潜航、30潜航、31潜航と、潜航をしました。
●無名の海底地形に名前を付ける
海域にはいくつもの岩山がありますが、それらには名前がありません。そこでわれわれはまず最初にこの地形図を作った時に、これらの岩山に名前を付けることにし、どういう名前を付けようかと議論をしました。その時、船上で昼食をとりながら、女優のブリジット・バルドーの話をしていました。彼女が最近、猫や犬と生活をしているという話になった時に、ではブリジット・バルドーを発掘したのは誰かというと、映画監督で彼女の最初の夫となるロジェ・ヴァディムです。ロジェ・ヴァディムは5回結婚をしていて、奥さんが5人います。よく知られた人ではキャサリン・ドヌーヴ、ジェーン・フォンダがいますが、そういう奥さんたちがいます。そこで、「よし、それではこの海底の地形図にロジェ・ヴァディムの女たちにちなんだ名前を付けよう」ということを私が提案して、皆「それはいい」ということになりました。
そこで、全体を「ロジェ海台」と名付け、特徴的なところに女性の名前をつけていきました。アネッタ・ヴァディムはヴァディム姓を名乗った奥さんです。彼女に敬意を払って一番大きい岩山をアネッタ岩と名付けました。それからブリジット・バルドーは、あまり上品ではありませんが、胸が大きいことで有名です。そのグラマーさに私は高校生の頃感動しました。ちょうど形のいい出っ張りが二つ並ぶところがあったので、これを東ブリジットの丘、西ブリジットの丘と名付けました。センスがいいでしょう。その他、いろいろな箇所にそれぞれ女性たちの名前を付け、広いテラスには美女平(びじょだいら)という名前を付けました。
ブリジット・バルドーの出演した映画で有名な作品に、ジャン=リュック・ゴダールの『軽蔑(Le Mépris(ル・メプリ))という映画があります。『軽蔑』はとても難しい映画です。主席の研究者はあるリング状のカルデラに着目し、「ここに熱水地帯があるのではないか。だからここに潜らせよう」と言いました。そのカルデラに名前を付けようということになり、リング・オブ・メプリ(軽蔑の指輪)という名前を私が付けました。メプリ(Mépris)というフランス語はフランス人以外はなかなか知らない言葉ですが、日本語に訳すと軽蔑という意味になります。そういう名前を付けました。
●ジグザグルート作戦の狙い
軽蔑の指輪はこの辺りです。最初の潜航は図のようなルートで計画を立てたのですが、この辺りの地形は非常にでこぼこしている部分があり、とても大変で緊張しました。また、一番深い箇所では2,800メートルまで潜らせるのですが、その方法として、まず500メートルまでは南下し、次に1,000メートルまで東に進み、それから再び南下して1,500メートルまで潜航し、今度は西に2,000メートルまで潜るというように、かぎ状に潜っていく計画を立てました。
なぜこんなことをするかというと、上からはロボットの位置が分かります。位置を調べる装置を持っているからです。そのため、ロボットが方向転換した瞬間に、「あ、ロボットはこの点を通過したな」とわれわれは知ることができます。つまり通信をしなくても、ロボットの位置を見ているだけで、「いま、ロボットはここを通過した」、「ここをこう行った」ということを把握できます。そのために、このようにかぎ状に潜航させるのです。こういう作戦はロボット展開のノウハウです。中間辺り...