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「天皇の譲位」に関する議論には慎重さとスピード感が必要

「天皇陛下のご譲位とご公務の負担軽減」について考える

山内昌之
東京大学名誉教授/歴史学者/武蔵野大学国際総合研究所客員教授
情報・テキスト
歴史学者・山内昌之氏は「天皇の公務の負担軽減等に関する有識者会議」の一員だが、「国民にまんべんなく理解を得られる提言はなかなか難しい」と語る。何がなぜどのように難しいのか。どのような論点があるのか。山内氏が天皇陛下のご譲位をめぐる問題について詳しく解説する。
時間:12:10
収録日:2016/11/02
追加日:2016/11/18
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≪全文≫

●天皇陛下のご退位・ご譲位に関する議論には慎重さとスピード感が必要だ


 皆さんこんにちは。本日は天皇陛下のご退位・ご譲位をめぐる問題についてお話ししてみたいと思います。

 天皇陛下が今年(2016年)8月8日におことばを出されてから2カ月以上が閲しました。そして10月17日、「天皇の公務の負担軽減等に関する有識者会議」の第1回会合が開かれました。私はその6人の構成員の1人として、天皇のご公務のご負担について考えなければならない立場にあります。その関係で本日は、私たちが今直面している問題についてお話ししてみたいと思います。

 「荏苒(じんぜん)時を許さず」「荏苒時を過ごさず」という言葉があります。まごまごしている間に時間だけが過ぎていくという言葉です。私は有識者会議の構成員として、ご高齢になられた陛下のご事情を鑑みるときに、ご負担の軽減や象徴天皇のあり方については慎重さを旨としながらも、スピード感をもって議論を進める大切さを改めて痛感しています。

 今年10月15日、16日に行われた産経新聞社・FNNの世論調査によりますと、陛下のご公務軽減の問題について「結論を急ぐべきだ」が56.5パーセント、「時間をかけて慎重に検討すべきだ」が41.3パーセントになっています。有識者会議はバランスをもった運営を心掛けることになりますし、また私もそうした心積もりでこの重要な問題に取り組んでみたいと思っています。


●平成30年=明治150年は「画期」になるかもしれない


 私は、間もなく83歳になられる天皇陛下が、今後さらにご高齢になられるという事実への配慮を何よりも優先すべきではないかと考えます。陛下は、平成15年1月に前立腺がん手術、23年11月に気管支炎・マイコプラズマ肺炎の治療、24年2月~3月に心臓冠動脈バイパス手術を受けられました。そして、気管支炎・マイコプラズマ肺炎のご治癒から退院されて5日後には、早くも東日本大震災殉職者等全国慰霊祭に出席され、またバイパス手術から退院された1週間後には、東日本大震災一周年追悼式に出席されています。こうしたご公務への精励さはすでに報道されている通りです。病後にさえご公務をなおざりにされないお姿には、国民として尊敬申し上げる他ないのです。

 とはいえ、2度にわたる手術、ご高齢による体力の低下にわざわざ言及された重みを十二分に咀嚼しなくてはなりません。今回の8月8日の陛下のおことばでは、憲法に規定された象徴としての立場を踏まえつつ、人間天皇の心のうちを個人として率直に語られたのが印象的でした。天皇の憲法上の地位については、第4条に「国政に関する権能を有しない」という明文があります。そうした点を根拠に、陛下は現行の皇室制度に具体的に触れることを控えながら、個人的な感想を述べられたのです。

 他方、天皇陛下は8月8日、「戦後70年という大きな節目を過ぎ、2年後には平成30年を迎えます」と仰せられて、ある種の歴史の時期区分に踏み込む発言をされています。考えてみると、平成30年とは明治150年に当たります。その年が、日本史においてまさに近現代の歴史を未来の歴史につなぐ画期(エポックメイキング)な年に当たるのかもしれません。あくまでも可能性・蓋然性ですが、否定できないことです。


●有識者会議はおそらく2つの論点に収束する


 陛下による個人的な歴史的区分の試みと明治150年との時間的暗合から何を読み解くべきか。それは、国民各自の個性や考え方によって違いもあることと思います。しかし、いずれにせよ、天皇は国民統合の象徴であり、国民の総意としての象徴天皇という地位にあります。この総意とは、総体としての国民の意思、一般的な国民の意思に他なりません。陛下のご公務としての負担を軽減するには、天皇を象徴足らしめている国民の総意、総体としての国民の意思に沿った解決を模索しなくてはなりません。有識者会議はひとまずあらゆる選択肢について虚心に、予断を交えずに検討することが不可欠です。

 会議での専門家ヒアリングの重要論点は、ご高齢の陛下のご公務負担を軽減するには具体的にいかなる道筋や方策が考えられるのかということです。それは、天皇の国事行為と公的行為をどう理解するのか、公的行為は軽減可能と考えるのかどうかといった点と不可分の問いになります。

 私は、大きくいえば2つの論点に収束するのではないかと考えています。第一に、現在の法的根拠に従って、ご在位のままだとするならば、公務の一部を見直すのか、それとも国事行為の臨時代行を設けるのか、それとも摂政を置くのか、いずれの道筋を可とするのかを考えることになります。

 第二の論点は、現行法では不可能ですが、ご譲位を可能にする道筋を開くという論点です。これには、特別立法による特別法の制定と、皇室典範の改正という2つの道筋があります。も...
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