福田赳夫と日本の戦後政治
この講義シリーズは第2話まで
登録不要無料視聴できます!
▶ 第1話を無料視聴する
閉じる
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
なぜ「三角大福」の抗争で福田の行動がわかりづらいか
福田赳夫と日本の戦後政治(7)田中政権から三木政権へ
井上正也(慶應義塾大学法学部教授)
田中角栄政権成立後に進められた日中国交正常化は、実は自民党の総裁選とリンクしていた。福田赳夫はソ連との関係や台湾問題などに配慮して慎重姿勢を見せていたが、田中は三木武夫を取り込むための大義名分として日中国交正常化を公約に掲げたのである。結局、中国との交渉は成功する。だが本来、外交論として考えたならば、福田の考え方のほうが王道であった。敗れた福田は、田中政権の大蔵大臣となり、インフレの抑制に貢献する。だが、田中の金権体質とそりが合わない福田は、田中政権の政権末期に蔵相を辞任する。それもあって、次の首相の座を逃し、次の三木政権で再び経済財政を支える司令塔としての役割を担うのだが……。福田と田中。対照的な2人の動向から、1970年代の自民党政治を振り返る。(全9話中第7話)
時間:11分53秒
収録日:2022年9月29日
追加日:2023年6月23日
≪全文≫

●日中国交正常化…福田の慎重な考え方のほうが王道だった


 さて、田中政権が成立します。その田中政権がやった外交政策は、一番大きなものは日中国交正常化です。実は、この日中国交正常化は自民党の総裁選とリンクしていました。

 というのも、田中角栄は三木武夫を取り込むためには、日中国交正常化をやるという公約を掲げざるを得なかったのです。田中は、実際には買収攻勢をかけていたのですが、大義名分は必要でした。その格好の大義名分が日中国交正常化だったのです。

 実は、福田赳夫はこれに対して慎重姿勢でした。俗にいわれるのが、福田が親台湾派、田中が親中国派で、結局は田中の勝利で日中国交正常化が実現したという見方です。しかし、この見方は少し単純化しすぎているところがあると思います。というのは、やはり1972年当時、日中国交正常化は当時の国際情勢から見ても、また国内の世論の要求から見ても、避けられないものであるというのはもう明らかだったからです。

 福田赳夫が主張していたのは、日中国交正常化を実現するという路線に反対はしないということです。しかしながら、いきなり北京に向かうのではない。例えば当時、ソ連が日本に対して接近をしてきていて、もしかすると北方領土問題が前に進むのではないかという期待がありました。だから、日ソ関係を見据えて慎重な外交をやらないといけない。あるいは、日中国交正常化を結んだら、台湾との政治関係は切らないといけない。ところが、いきなりやってしまうと台湾問題の処理が大きな問題になります。だから、北京側とも台湾問題をどうするかをちゃんと協議した上で日中国交正常化に踏み切るべきだ、ということを福田は主張していたのです。

 そうして福田は反対したわけですが、結局は田中と外務大臣になった大平正芳が、政権ができて間もなく北京に向かって日中国交正常化を実現することになります。ただこれは、中国政府が当時、日中国交正常化を急いでいたという事情があって、条件面では中国側が非常に譲歩しているのです。

 だから、田中政権にしてみたら、実現できる見通しが立った上で、国交正常化に踏み切ったのです。結果として田中のやり方はこの時、成功したわけですが、ただ本来、外交論として考えたとき、福田の慎重に交渉を進めるという考え方のほうが王道でした。

 だからこそ、その後で中国問題は、福田に近い...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「政治と経済」でまず見るべき講義シリーズ
外交とは何か~不戦不敗の要諦を問う(1)著書『外交とは何か』に込めた思い
外交とは何か…いかに軍事・内政と連動し国益を最大化するか
小原雅博
2025年、どん底日本を脱却する大戦略(1)日本が凋落した要因を総覧する
日本凋落の「7つの要因」と「10の復活大戦略」
島田晴雄
習近平中国の真実…米中関係・台湾問題(1)習近平の歴史的特徴とは?
一強独裁=1人独裁の光と影…「強い中国」への動機と限界
垂秀夫
トランプ・ドクトリンと米国第一主義外交(1)リヤド演説とトランプ・ドクトリン
トランプ・ドクトリンの衝撃――民主主義からの大転換へ
東秀敏
日本の財政政策の効果を評価する(1)「高齢化」による効果の低下
高齢化で財政政策の有効性が低下…財政乗数に与える影響
宮本弘曉
岸信介と日本の戦前・戦後(1)毀誉褒貶相半ばする政治家
「昭和の妖怪」岸信介の知られざる実像を検証する
井上正也

人気の講義ランキングTOP10
東大ハチ公物語―人と犬の関係(1)上野英三郎博士とハチ
忠犬ハチ公で哲学する…人と犬の関係から見えてくる道徳論
一ノ瀬正樹
エンタテインメントビジネスと人的資本経営(4)エンタメで一番重要なのは「人」
変人募集中…0から1を生める人、発掘する人、育てる人
水野道訓
徳と仏教の人生論(2)和合の至りと正直
正直とは何か――絶対的存在との信頼関係の根幹にあるもの
田口佳史
産業イニシアティブでつくるプラチナ社会(1)「プラチナ社会」構想と2050年問題
5つの産業で「資源自給・人財成長・住民出資」国家を実現
小宮山宏
習近平中国の真実…米中関係・台湾問題(1)習近平の歴史的特徴とは?
一強独裁=1人独裁の光と影…「強い中国」への動機と限界
垂秀夫
クーデターの条件~台湾を事例に考える(1)クーデターとは何か
台湾でクーデターは起きるのか?想定シナリオとその可能性
上杉勇司
学力喪失の危機~言語習得と理解の本質(5)AIに記号接地は可能か
人間とAIの本質的な違いは?記号接地から迫る理解の本質
今井むつみ
大谷翔平の育て方・育ち方(1)花巻東高校までの歩み
大谷翔平の育ち方…「自分を高めてゆく考え方」の秘密とは
桑原晃弥
未来を知るための宇宙開発の歴史(14)宇宙開発は未来をどう変えるか
『2001年宇宙の旅』が現実になる!?カギは宇宙医学
川口淳一郎
危機のデモクラシー…公共哲学から考える(6)政治と経済をつなぐ公共哲学
どのような経済レジームを選ぶか…倫理資本主義の可能性
齋藤純一