●国際的に見れば日本は穏健
岡崎 日本の右傾化に関してですが、最近、アメリカでは、一生懸命、日本を弁護している論文が出ています。しかし、それがまた、皆変なのです。日本に長くいて、日本のことを一生懸命勉強し、日本に好意的な人による論文で、日本人のことをよく知っているため、「日本人は皆こうではない」「日本人はハト派が多い。安倍首相のような人は例外で、あれが日本人の全てと思わないでくれ」と言うのです。そして、「口では何を言っても、現に日本は70年間平和国家で、何も悪いことはしていないではないか」「日本は、本当はいい国なのだ」という論説なのです。
これは、ここ何十年にわたり日本の歴史を知っているという経歴から言えば、そうなのですが、そういう人たちからすれば、安倍さんはやはり右翼になるのです。しかし、そういう弁護は、問題の本質を捉えていないと思います。
私の理論では、日本は全然右傾化していません。一番分かりやすいのは、「あなたは国を守るために戦いますか」という質問をして、答えてもらうことです。これが、どういうことになるかですが、ここ最近10年ぐらい、内閣府はそういった世論調査をやっていません。
―― そうなのですか。
岡崎 やっていなくて、古い数字しかないのです。また、国際的な世論調査も、その時によって質問が変わったりしているので、なかなかそろわないのです。
けれども、21世紀になってからの世論調査から、おおむね言えることは、「あなたは国のために戦えますか」と聞かれて、イエスと答える日本人は16パーセントほどです。それが、ここ2、3年で増えたかどうかという問題はありますが、傾向としてはそんなところです。アメリカはだいたい68パーセントで、年によって、ほとんど変わりません。中国、韓国は80パーセント前後です。
―― なるほど。
岡崎 そうすると、日本の16パーセントが、例えばここ数年間で倍増して32パーセントになったとします。これはトレンドとして見たら、100パーセント増えたということになるので、ものすごい右傾化です。けれども、国際的に見たら、まだ穏健化で、左翼ですよ。ですから、日本は右傾化などしていないということです。
●現在の日本には右翼情報も政党もない
岡崎 それよりももっと、日本が右傾化していないと僕が思うことがあります。
私は情報が専門ですから、ずっと情報のことをやってきて、最近はもらっていないのですが、警察からも情報をもらうわけです。当時、警察が調査に力を入れる割合は右翼と左翼半々で、右翼情報を皆送ってくれていたのです。これを送ってくれなくなってから、もう20、30年ほど経つのではないですかね。ですから、今は右翼情報がないのです。
日本の右翼というのは、ものすごく伝統があって、本命右翼は大東塾です。大東塾には影山という人がいて、とにかく事が起こると、塾長は切腹します。それが本命右翼です。それから、例えば、右翼には、井上日召という人や大日本愛国党の赤尾敏という人がいて、70年安保の頃までは活躍していましたので、当時、保守の政治家は彼らを使っていました。しかし、その後、死に絶えてしまいましたね。
ですから、その辺りで街宣活動をしているのは、思想的な背景が何もないですから、右翼とは言えないのです。スローガンを繰り返して、あちこちから金を集めることぐらいなので、右翼ということにはならないのです。
●右傾化に関して日本とヨーロッパには明確な違いがある
岡崎 もっと面白いのは、ヨーロッパはどの国も右翼が出てきていて、ネオ・ナチのような組織があります。彼らの主張は、主として移民排斥で、選挙でも何パーセントか票をとっているのです。
―― 結構、強いですよね。
岡崎 ネオ・ナチと右翼政党は強いですね。
ところが、日本は、この前の参議院選挙ではいろいろな小党が乱立したでしょう。その中で右翼政党は一つもないですよ。
―― 確かにそのとおりですね。
岡崎 どういう現象なのか分かりませんが、右翼はなくなった、死に絶えた、ということです。だから、日本が右傾化ということはないですね。
一時、加藤紘一氏の屋敷が右翼に火をつけられたことがあったでしょう。
―― 自宅が、ですね。
岡崎 その時にテレビ局が「1930年代の右翼によるテロの再発か。気をつけなければいけない」と言って、評論家を皆集めたのです。それに私も出て、「違うよ。これは挫折した右翼の単独犯だ」と話しました。つまり、彼らはもういい年で、活動する場所もない、元右翼の単独犯なのです。
―― 先生の見立てどおりだったのですね。
岡崎 そうでしょう。そこまで言ったら、皆白けてしまったけれども、私の判断は正しかったのです。1930年代のいろいろ...