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デフレ脱却を目指している今こそ法人税率引き下げを

法人税改革はアベノミクス第三の矢の試金石

伊藤元重
東京大学名誉教授
情報・テキスト
国・地方合わせた法人税率の国際比較
出典:財務省ホームページ(https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/corporation/084.gif)より
今、世界の中でも格段に高い日本の法人税率の引き下げが議論されている。財政健全化も同時に推進しなければならない日本の法人税改革はいつ、どのように行うべきなのか? 諸外国の実例とともに税率引き下げの背景から分かりやすく解説する。
時間:16:18
収録日:2014/04/25
追加日:2014/05/02
カテゴリー:
≪全文≫

●財政健全化抜きでは語れない法人税率引き下げ


安倍総理が今年1月のダボス会議で法人税の改革をしたいとおっしゃったことが一つのきっかけで、日本で法人税の改革、もう少し正確に言うと、法人税率を引き下げるという議論が高まっています。これは、これからの日本経済、特に成長戦略の行方を考える上でも非常に重要な点になるだろうと思います。
いくつか重要なポイントを申し上げたいと思いますが、一つは多くの専門家、経済学者やビジネスに精通している方々に聞くと、日本の法人税はいずれ欧州あるいは近隣アジア諸国並みに税率を下げていくべきだろうという見方をしている人が大半のようです。税の専門家に近い方々もたくさん参加されている政府の税制調査会の第一回目の会議で、法人税改革について一般的な論議をした時にも、日本の法人税率は国際的に見ても高いので、下げていくべきだという議論をした人が多いわけです。したがって、日本の法人税率が高いのか低いのかで言うと、高すぎるということに対しては、一部の例外の人を除くと、基本的な認識はあると思います。
ただ、政治的に難しいのは、財政健全化ということを同時に実現しないといけない今、法人税率を下げることが本当に正しい選択なのかどうかということに対しては、いろいろな論議があるわけで、財政健全化と法人税のあり方について、まさに今、政治あるいは政策論議の中で大きな問題になっているわけです。


●諸外国にみる法人税率引き下げの背景(1)グローバル化


さて、なぜ法人税率を下げるべきかという議論が世の中にあるのかということですが、法人税率は世界の主要国を見ると、日本とアメリカだけが突出して高くなっています。かつての欧州の多くの国も日本とそれほど変わらない法人税率だったのですが、ここ10年20年の間に急速に法人税率を下げてきているわけです。
それから日本の周辺であるアジアの諸国も同じように法人税率を下げているわけで、したがって、かつてはあまり違いがなかったのに、気が付いたら日本とアメリカ以外の国は法人税率を下げてしまって、結果的に日本とアメリカだけが突出して高い状況にあるというのが現実です。
なぜ各国が法人税率を下げてきたかと言うと、二つの大きなファクターが働いていると思います。一つは国際的な競争ということで、欧州がわかりやすいと思いますが、国境の壁を低くして、欧州域内でいろいろな競争が起きているときに法人税率が低い国で生産活動や投資が行きやすいという流れができています。そういう中で、自分の国だけ法人税率が高い状態を維持するのが難しくなってきて、グローバル化という現実を考えると、法人税率を下げていくしかないだろうという動きが欧州で広がっているわけです。
アジアの国々が法人税率を下げてきているのはもう少し積極的な狙いがあって、むしろ法人税率を下げていくことによって、「自分の国に来れば有利になりますよ」という企業誘致の意味もあるのだろうと思います。
日本にとってもこのようなグローバルな税の流れの中、全く無関係だというわけにはいきませんから、法人税をどうするべきかという議論になるかと思います。


●諸外国に見る法人税率引き下げの背景(2)高齢社会における税体系の見直し


もう一つ、法人税率を下げてきている背景には、これは特に欧州に強く見られるわけですが、高齢社会の中での税のあり方、つまり、法人税だけではなくて、税の全体の体系の論議に関わってきているわけです。
欧州は法人税率を下げてきていると同時に、消費税、欧州では付加価値税と言うのですが、この税率を上げてきているわけです。付加価値税率を上げていく一方で、なぜ法人税を下げていくのかというと、この最もオーソドックスな解釈は、高齢社会になれば社会保障等の財源が必要になってきます。それを手厚く集めていくということが大事になるわけですが、そのためにはできるだけ経済活動に悪影響を及ぼさない形でしっかりと税収を確保する必要があり、そういう意味では薄く広く税金を取るのが好ましいと考えられているわけです。
ですから、現役世代の一部の人の個人所得から高い税率で税を取るとか、あるいは、法人で利益が上がったところだけ法人税でがっぽり税金を取るというのは、経済の活力を失わせるという意味でもあまり好ましくないのではないかという意見があります。したがって、それよりは消費者であろうが、生産者であろうが、流通業者であろうが、付加価値に関わってきているところから、薄く広く税金を取ったほうが、経済全体の活力を失わずに安定した財源を得られるようになるだろうというのが、欧州で付加価値税率を上げてきた背景です。
したがって、付加価値税率を上げていこうという動きと、法人税を下げていこうという動きが欧州で同時に起こっているというのは...
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