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大統領令を連発するトランプが抱える政治的リスク

トランプ大統領が抱える三つのリスク

曽根泰教
慶應義塾大学名誉教授/テンミニッツTV副座長
情報・テキスト
政治学者で慶應義塾大学大学院教授・曽根泰教氏がトランプ大統領自身の抱える三つのリスクについて解説する。就任当初、大統領令の連発で話題となったトランプ氏だが、アメリカの大統領制、議会運営のあり方そのものに潜むリスクを考えれば、大統領権限は必ずしも強大なものではないことが分かる。さらに、マスコミを敵に回したトランプ氏は、過去何人かの大統領がさらされたのと同様のリスクも抱えているのだ。
時間:12:55
収録日:2017/03/27
追加日:2017/04/20
カテゴリー:
≪全文≫

●トランプ大統領自身が抱える政治的リスク


 今日はトランプ大統領が抱えるリスクというお話をします。通常「トランプリスク」とは、市場が抱くトランプファクターによるリスクのことを言います。例えば、トランプ氏が何を言い出すか分からないことや、ツイッターで何をつぶやくかによって市場が乱高下するリスクのことを指しますが、今日はその話ではなく、トランプ氏自身が抱える政治的なリスクとはどのようなものがあるか。そういうお話をいたします。

 全部をお話しするわけにはいかないので大きく三つを挙げます。一番目はアメリカの政治制度が持っているリスク、二番目は共和党あるいは議会運営のリスク、三番目が弾劾のリスクです。


●大統領制のリスク-チェックアンドバランスと政治的停滞


 最初に制度としての大統領制のことをお話しします。アメリカの大統領は非常に権限が強いといわれていますが、その強い権限はある意味では、議院内閣制よりも脆弱なところがあります。

 一つにはテンミニッツTVで何度もお話ししているように、三権分立、いわゆるチェックアンドバランスということで、大統領にはチェックが非常にきつい制度であることです。別の言い方をすれば、議会、上下両院からのチェック、司法からのチェック、さらに州からのチェックも加わるということで、チェック、チェック、チェックとなり、大統領が独自の政策をなかなか実行できないということです。

 立法は大統領権限ではなく議会が行いますし、予算も議会がつくるということで、ある意味で通常の議院内閣制の国が持っている首相の権限というものが大統領にはないのです。そういう意味でいうと、政治的停滞は当然起こります。その政治的停滞は、そもそも制度に内在化している停滞なのです。

 では、停滞がないようにしたらいいではないかと思うかもしれません。しかし、アメリカの憲法やアメリカの仕組みを設計した人たち、彼らをフェデラリスト(連邦派)と呼ぶわけですが、そのフェデラリストの中心的メンバーであるジェームズ・マディソンなどが考える政治は、「停滞する方が暴走するよりいいのだ」というものです。つまり、ある意味で停滞は当たり前ということを前提とした制度設計なのです。


●少数者が多数による支配、暴走を抑制するしくみになっている


 アメリカ政治を考えるとき、これは私の分類ですが、二つの大きなグループに分けることができます。一つはマディソン的な、今の言葉でいうとガバナンス的な仕組みです。権力をどうやって抑制するか、誰が意思決定するのかというようなガバナンスを中心にして考えるグループです。そしてもう一つは、フランスの思想家トクヴィルがアメリカ政治を分析したとき、「社会基盤が非常に強い国である」と言ったのですが、今の言葉でいい直すとソシアルキャピタル(社会関係資本)ですが、つまりそうした社会基盤から民主主義を考えるグループです。

 マディソン的な解釈でいうと、制度としてのアメリカ政治は一見すると直接政治に見えるけれども間接制になっており、あるいは議会、司法が強いということで、チェックを非常に受けます。マディソンたちが考えたのは何かというと、少数者(マイノリティ)は今「弱者」と訳しますが、その弱者ではなく地位も名誉も財産もある少数者が頭に血がのぼった多数による支配を抑制する、つまり多数派によって簡単に少数者の権利が失われないようにする、ということです。その少数者とは今の言葉でいうと「エリート」で、財産も地位もある人たちのことです。

 こういうことを仕組みとして作りこんだということで、大統領が大統領令を書けば何でもできるという制度ではないのです。以上のことが、トランプ氏が抱える第一番目の政治的なリスクです。


●共和党の強硬派と穏健派の対立に見る議会運営のリスク


 二番目は何かということを説明します。議会で共和党が多数の議席を持っています。上下両院で共和党が多数派ですので、いわゆるDivided Government(分裂政府、あるいは分割政府)ということにはなっていません。しかしながら、大統領令に示した、オバマケアを否定して代替案を通すというこのトランプ大統領の意向は否決されました。日本的な考えでいえば、多数派を持っている共和党がいるのにどうして通らないのか、と思うところですが、通らないと予想されたから取り下げたということになるのです。

 アメリカが分極化しているということは何度も申し上げました。しかし、共和党内も分極化しているのです。強硬派と穏健派の両方から批判が出たのです。強硬派とは、ティーパーティー的な発想を持つ「小さな政府」論の立場です。ですから、オバマケアの全面廃止を唱える人たちです。穏健派は、オバマケアの修正という考え方です。ただ、トランプ大統領の修正...
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