●データに見る戦争と政府負債の関係
日本は何と戦っているのか、どこと戦っているのかという、一見すると非常に奇妙な問いについてお話をします。
トマ・ピケティのこの図をご覧いただくと分かると思いますが、イギリスはGDP比で政府の負債が200パーセントほど出てくるのは、ナポレオン戦争(18世紀末~19世紀前半)の時と第二次世界大戦後です。日本も明治以降、特に財政の記録が出てきてからをご覧になっていただくと分かると思いますが、200パーセントに近い数字になった、あるいはそれを超えたのは、第二次世界大戦、つまり昭和19年、20年頃です。それから、戦後でいえば、ごく最近のことです。厳密には200パーセントは超えておらず180数パーセントですが、200パーセント近い数字を持っているということです。
●戦争をしていない日本の負債が200パーセントに近い不思議
この図の比較を単純に図式的に見ると、戦争を行っていると政府の負債が200パーセントになるということがよく分かります。日本も第二次世界大戦の時には、200パーセントになりました。では、今は戦争をしていないのになぜ200パーセントになっているのか、という疑問が出てくると思います。逆にいうと、今戦争をしているとすればそれはよく理解できる、ということになります。では戦争をしているとしたら、何の戦争をしているのですか、ということが今日の話題になります。
戦争をしているときほど、財政出動をして財政を賄わなければいけません。「戦争のために財政を賄う」とは、戦費調達のために戦時国債を発行するということです。そうすると、国債の発行が累積していくわけですから、200パーセントの意味がよく分かります。また、戦争だと大本営発表があって、(そのために)「被害は軽微なり。敵に甚大な被害を与える」というようなことを言っても不思議ではないのです。この点に関して、経済学者や財政学者の中には「たいしたことないんだ」という人もあれば、「いやいや、大変なことなんだ」という人もいます。いずれにしても、今は大本営発表の時と非常に似ていると思います。
●社会保障費を保険料で賄えれば問題ない
では、日本は一体何に対して戦っているのか、どこと戦争をしているのかというのが分からないことには、現状把握はできません。そこで次の図を見ていただければ分かると思うのですが、日本は社会保障費を賄うために汲々としている国なのです。社会保障給付額ですが、ここで挙げられた数字は約115兆円(2014年度予算ベース)です。一般会計では今年(2017年度)約97兆円の予算が通りましたが、それよりも社会保障給付費の方が多いのです。
しかし、多くてもそれはさほど問題があるとはいえません。なぜかというと、日本の社会保障費は基本的には保険料です。一般会計ではないのです。ですから、115兆円であろうと120兆円であろうと、それが保険料で賄っていて独立採算で回っているのであれば、それは戦争とはいえません。
●社会保障費は保険料で賄えず税金でカバーしている
ところが、この図を見ていただくと分かると思いますが、保険料はそのうちの半分くらい、約60兆円です。そして国庫、国や地方がある程度を賄っている、つまり30兆円ほどが国の税金から出ており、また、約10兆円、正確にいうと12兆円ほどを地方が税で負担しているのです。もちろん、資産運用のところもありますが、その話はちょっと置いておきます。そうすると、社会保障費を保険料で賄えないわけです。大体40兆円分赤字が出ているのです。
もう一つ、そこを一般会計の内訳で見ていただくと分かると思いますが、国債費の利払い問題と地方交付税を除くと、約30兆円が社会保障関係費です。社会保障をこのお金で賄っているのではなく、社会保障の一部は税金で行っているというだけです。よって、給付額は税金で賄っているわけではありません。そして、一般会計は社会保障とその他になります。実は厚生労働省の予算は、その他、つまり外務省も財務省も国土交通省も全てまとめた全体額よりも大きい。社会保障関係費の方が大きいのです。まずこういうことを把握すると、「社会保障、大変だね」ということが分かると思います。
●解決策の大きな障壁は数々の「抵抗」
では、どうしたらいいのかというと、保険料を上げる、あるいは国から出ている税金部分を止めてしまうことです。ですが、税金部分を止めることはできません。例えば、国民年金の半分は税金をつぎ込むということになっています。ならば、赤字が出ないように社会保障の歳出、給付を切り刻もうということで、どの政党がここに手をつけようとしても大変に抵抗があります。国民からの抵抗があると同時に、実は政治家が恐がっているのです。
「これはシルバーデモクラシーだ」という説がありますが...