●「デュアル・システム」と呼ばれるフランス政治の特徴
フランスの大統領選の結果を踏まえて、どういう票が出たかという概観に続き、フランスが抱えているこれからの課題についてお話しします。
選挙結果の前に、フランス政治の特徴を申し上げます。選挙で過半数を取らないと議席が取れないのですが、一回の投票では過半数がほとんど取れないので、基本的に二回投票制になっています。フランスには国民議会がありますが、国民議会も投票日が二日設定されており、二回投票を行います。もう一つ、フランス政治の特徴として、今回選挙の行われた大統領の他に首相がいることが挙げられます。これら、大統領と首相がいる点から、フランス政治は「デュアル・システム(二元制)」といわれます。
日本ではよく地方自治体が、首長と議会の二元代表制だといわれますが、あれは国際基準からいうと大統領制あるいは準大統領制なのです。ところが、フランスの場合には、国の代表者として大統領と首相がいる二元制です。学者によっては、それを「半大統領制」と呼ぶ場合もあります。
●マクロン大統領下では「コアビタシオン」が起きるか?
両者が異なる、つまり大統領側が議会多数を取れないときもあります。大統領は、首相任命権がありますが、通常、下院選挙の結果を尊重し、下院の多数党の指導者を首相に任命するので、自党とは異なる代表を首相とすることがある。例えば、大統領が保守派、議会と首相は野党側というような場合です。それを「コアビタシオン(同棲)」といいます。過去には、フランソワ・ミッテラン大統領とジャック・シラク首相、シラク大統領とリオネル・ジョスパン首相の時にコアビタシオンが起こりましたが、今後も起こるかもしれません。
なぜなら、エマニュエル・マクロン氏が国民議会に議席をほとんど持っていないからです。ゼロ議席です。国民戦線は2議席ですが、今回、マクロンは新党立ち上げて戦います。
では、大統領の一回目の選挙結果を見ると、どういうことが言えるでしょうか。イデオロギー的に左から右へ並べていくと、ジャンリュック・メランション氏、ブノワ・アモン氏、マクロン氏、フランソワ・フィヨン氏、マリーヌ・ルペン氏となります。
特徴としては、第五共和政時代の主力政党である共和党(共和国派)のフィヨン氏はかろうじて候補に残りましたが、当選しませんでした。一年以上前の時点では「フィヨンでいくのではないか」といわれていたのですが、それは無理でした。社会党にいたっては、アモン氏は4位までにも入りませんでした。
●反ルペンで票を集めたマクロン新大統領
次の図をご覧になっていただくと分かるようにマクロン氏対ルペン氏という対立構造になったわけですが、最初の投票の時にフィヨン氏やメランション氏、あるいはアモン氏を支持した人は2回目では誰に投票するのでしょうか。
ここが、フランス政治の面白いところです。二三位連合、あるいは「反○○」という連合体が組める、あるいは多数派がさらに大きく支持を伸ばすかもしれず、複雑な計算をしなければならないわけです。
今回の場合、無所属のマクロン氏と国民戦線のルペン氏の対立になったので、反ルペンすなわち「ルペンだけは通さない方がいい」という人が割と多かった。つまり、積極的なマクロン支持はそれほど多くなかったけれども、当選はマクロン氏になったということです。
また、選挙の結果、白票や無効票も多かったのです。しかしながら、一番重要なのは、ルペン氏が約1000万票、およそ34パーセントの票を取ったということです。人口の少ないフランスで34パーセント、1000万の票を取ったのはやはり警戒すべきことです。
●マクロン氏の行く手に立ち塞がる議会、分断、EU問題
あるイギリスの新聞の記事では「(マクロン氏の当選で)心臓発作はかろうじて逃れた。しかし、ヨーロッパが変わらないと、決定的なフェイタル(致死的)の日を単に先延ばししただけだ」と報じました。確かに今回、世界がショックを受けるようなことはなかったので、心臓発作は逃れたけれども、心臓病の原因はまだ残ってしまっている、ということです。それは何なのでしょうか。
一つ目は、6月に行われる国民議会の選挙でマクロン氏が多数派を取ることができるのかどうかです。第五共和政のかつての政党が議席を減らすのは確実でしょうが、マクロン・グループ(アン・マルシェ!)はこれからどうなるのか。無党派の彼は議会に基盤がないため、マクロン・グループがこれからどれだけの議席を取れるのかが問題で、取れないとなると、フランス政治はやはり停滞の方向へ進むわけです。
それから、フランスでも分断が、はっきり見えました。地域の分断、それから学歴・所得・社会的な地位などの上下で分かれてしま...