格差の固定化と教育問題
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
ヒルビリー・エレジーから考える格差と市場経済と民主主義
格差の固定化と教育問題
伊藤元重(東京大学名誉教授)
東京大学名誉教授で学習院大学国際社会科学部教授の伊藤元重氏が、グローバル規模で拡大する格差の固定化とその是正について解説する。伊藤氏は、市場経済と民主主義の概念の衝突が格差を生むと言う。では今後、格差の固定化を防ぐにはどうすれば良いのか。その方向性について教育の問題とも絡めながら論じる。
時間:16分23秒
収録日:2017年4月25日
追加日:2017年6月2日
≪全文≫

●格差問題とトランプ大統領誕生、ブレグジットの関係


 今、反グローバル化の議論が世界で流れていて、その根底には格差の問題があるといわれています。アメリカでは今回トランプ氏が当選した一つの背景には、いわゆるラストベルト(rust belt)があり、オハイオ州やミシガン州といった政治的にはスイング・ステート(swing state)の人たちの票が、民主党から共和党に流れてトランプ氏に投票したといわれているのです。

 先日アメリカに行った時、たまたま人に勧められて読んだ本で『Hillbilly Elegy』(邦題『ヒルビリー・エレジー-アメリカの繁栄から取り残された白人たち』J.D.ヴァンス著、光文社)があります。ヒルビリーというのは、アパラチア山系の麓あたりに広がっている、いわゆるプアホワイト、歴史的にいうとかつてアイルランドやスコットランドから来た非常に貧しい人たちのことをいいます。この人たちがいかに貧しいかということが克明に書かれているのですが、すごい内容です。

 実はこの人たちは一時的に豊かになったのですが、それは戦後、特に鉄鋼や自動車産業が盛んになってきて雇用されたからです。それが駄目になって元に戻ってしまいました。麻薬が蔓延し、教育なども受けられなくて生活保護を受けるといった非常に厳しい状況となり、結果的にこの人たちがトランプ氏に投票して政権が動いたといわれています。

 イギリスのブレグジット(BREXIT)でも、EUからの離脱に賛成票を投じたのは、ロンドンのような豊かなところではなく、地方が中心だったわけです。そういう中で出てきたのは貧しい人たちで、ポーランドや東欧の人たちがEUのルールの中でどんどん自分たちの近くに来ていろいろな仕事をするために、自分たちの仕事が奪われてしまうのではないかということでした。


●格差の固定化を回避する最大のポイントは教育


 そういう意味で、格差は非常に重要な問題です。特に日本では、格差と教育の問題はペアで議論されることがあり、格差があっても頑張れば豊かになれると考えられてきました。例えば、貧しい家に生まれた黒人の少年でも、バスケットのスター選手になれば稼げるといったように、です。これはアメリカンドリームというのかもしれません。

 一時的であればいいのですが、教育の問題があるので、貧しい人は教育を受けられない、あるいは教育を受けないということで、自分の...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「政治と経済」でまず見るべき講義シリーズ
過激化した米国~MAGA内戦と民主党の逆襲(1)米国の過激化とそのプロセス
トランプ政権と過激化した米国…MAGA内戦、DSAの台頭
東秀敏
グローバル環境の変化と日本の課題(1)世界の貿易・投資の構造変化
トランプ大統領を止められるのは?グローバル環境の現在地
石黒憲彦
外交とは何か~不戦不敗の要諦を問う(1)著書『外交とは何か』に込めた思い
外交とは何か…いかに軍事・内政と連動し国益を最大化するか
小原雅博
戦争とディール~米露外交とロシア・ウクライナ戦争の行方
「武器商人」となったアメリカ…ディール至上主義は失敗!?
東秀敏
デジタル全体主義を哲学的に考える(1)デジタル全体主義とは何か
20世紀型の全体主義とは違う現代の「デジタル全体主義」
中島隆博
「次世代地熱発電」の可能性~地熱革命が拓く未来
地熱革命が世界を変える――次世代地熱の可能性に迫る
片瀬裕文

人気の講義ランキングTOP10
AI時代と人間の再定義(4)自分と出会うチャンス
人生はエネルゲイア――AIにない「自分と出会うチャンス」
中島隆博
豊臣兄弟~秀吉と秀長の実像に迫る(9)秀吉が作った公武統一政権と歴史のif
公武統一政権を作った秀吉の狙いとその歴史的意味
黒田基樹
ポスト国連と憲法9条・安保(1)国連の構造的問題
核保有する国連常任理事国は、むしろ安心して戦争できる
橋爪大三郎
衰退途上国ニッポン~その急所と勝機(1)安いニッポンと急性インフレ
世界で一人負け…「安い国」日本と急性インフレの現実
宮本弘曉
これからの社会・経済の構造変化(1)民主主義と意思決定スピード
フラット化…日本のヒエラルキーや無謬性の原則は遅すぎる
柳川範之
「進化」への誤解…本当は何か?(9)AI時代の人間と科学の関係
科学は嫌われる!? なぜ「物語」のほうが重要視されるのか
長谷川眞理子
葛飾北斎と応為~その生涯と作品(1)北斎の画狂人生と名作への進化
葛飾北斎と応為…画狂の親娘はいかに傑作へと進化したか
堀口茉純
エネルギーと医学から考える空海が拓く未来(6)曼荼羅の世界と未来のネットワーク
命は光なのだ…曼荼羅を読み解いて見えてくる空海のすごさ
鎌田東二
内側から見たアメリカと日本(4)アメリカ労働史とトランプ支持層
ギャングの代わりに弁護士!? 壮絶なアメリカ労働史の変遷
島田晴雄
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(1)「スキーマ」問題と認知の仕組み
なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み
今井むつみ