●大学全体として高い視野からの人事ができていない
質問 GRIPS(政策研究大学院大学)は、大学の中のイノベーションでした。こうした大学は他にないのでしょうか。
白石 GRIPSは小さい大学ですので、小回りが利きます。かなりの程度、学長の思い通りになります。大学改革にはいろんな問題があるのはご承知の通りですが、動こうとする大学が本当に動き始めたということです。日本の大学もまんざら捨てたものでもないと思います。
ただ、アメリカのトップクラスの大学と比べればまだまだでしょう。アメリカ・イギリス・日本のトップクラスの大学の戦略を比較研究している方がGRIPSにいます。彼によれば、やはりアメリカの大学の方がよく考えているようです。
例えば、人事一つ取ってもそうです。日本の場合、大学人事となると、それぞれの部局に任せてしまいます。部局に任せると、どうしても部局の中だけで望ましい人になります。つまり、大学全体として、どういう人を採りたいかという、もう少し高い視野からの人事ができていないのです。もう少し彼の研究が進展すれば、具体的な結果が分かるでしょう。
今、私は広島大学で経営委員に就いています。広島大学は今の学長になって、教員を全部、大学レベルの教員にしました。つまり、これからは教員の任用やプロモーションについては、学部で決めずに学長の承認が必要になるのです。
これは日本の大学にとっては画期的なことだと思います。文科省がその重要性に気付いていないのは不思議です。例えば、ハーバード大学やコーネル大学の人事は、2段階の過程があります。まず、それぞれの学部でサーチコミュニティーを作り、そこで研究者を採用します。それぞれの分野で一番良い人を採るわけですから、研究者としてはしっかりとした人が採用できます。しかし、それがそのまま直ちに大学の人事にはなりません。次に、その人事を大学本部に持っていって、それが大学全体にとってプラスかどうかということを判断します。この過程を経て、ようやく人事が決定します。
●重要分野の研究者をまとめて採用するクラスターハイヤリング
白石 日本の大学の人事は、まだこのレベルにも達していません。その上、先ほどの研究者の方によれば、アメリカの大学はさらに先へ進み始めているようです。例えばサイエンスでは、物理や化学といったそれぞれの分野で優秀な人を採...