●行きつけのコンビニは時計回り?反時計回り?
学生には前回のような話をよくしていますが、少し前に読んだパコ・アンダーヒル氏の『なぜこの店で買ってしまうのか ショッピングの科学』は非常に面白い本ですから、ぜひ読んでいただきたいと思います。パコ・アンダーヒル氏はマーケティングの専門家で、アメリカの店舗をずっと観察してきました。彼の場合は行動経済学でいう癖を超えて、体の身体機能や男性と女性が持つ行動パターンの違いなどに非常にこだわった分析をしています。
例えば、コンビニやスーパーがいちばん分かりやすい例なのですが、時計回りで店を回るのか、反時計回りで回るのかという大問題があるのです。要するにスーパーでもコンビニでも、どちらに動くかということを考えているわけです。皆さんにも自分がよく行くコンビニエンスストアを思い出していただきたいのですが、どこから入ってどちら回りで動いていくか。多分一般的なお店は反時計回りのはずです。
なぜかというと理由は簡単です。人間の多くは右利きだからで、左手でカゴを持って右手で棚から商品を取るのが自然な動作です。左回りになってしまうと、いちいち左手で取るか、右手を横から差し出して取ることになるため、非常に不便になります。
これを「右手の法則」と呼ぶらしいですが、人間が右手で物を取ることを前提に店の品ぞろえをどう組み立てようかと考えるのは、とても大事なことなのです。
それがもっと顕著に出るのが駅の売店です。例えば、出張に行くサラリーマンはカバンを持っていますが、売店で飲料やなどを買うときはどうするでしょう。カバンを床に置いて、お金を出して買うということは、あまりしません。左手にカバン、右手で商品を持って、お金をパッと差し出す。そのためには店員はどこに座っていなければならないかというと、真ん中より少し左だというのです。こういった法則のようなものもあります。
●男女の買い物に対する情熱の落差をどうする?
パコ・アンダーヒルの本には、こうした人間の癖が非常に面白く描いてあります。私が非常に印象的だったのは、百貨店で衣料品を買う話です。
洋服は体に合わないといけないから、フィッティング・ルームがある。男性の場合、フィッティング・ルームに入って洋服が合うと6~8割ほど購入となります。サイズが合わなければ買いませんが、サイズが合えばほぼ買うということです。一方、女性の場合、フィッティング・ルームに入ってサイズが合っても、買う人は2~3割しかいません。
なぜ女性が2~3割で男性が6割以上かというと、お店のフィッティング・ルームで洋服を着てみることの目的がまったく違うからです。女性はそれを着て、本当に自分が気にいるのかいらないのかということを一度確認してから買うということです。
さらに面白いのは、店舗での平均滞在時間です。いったい1時間いるのか30分いるのか、女性が単独や女性同士連れ立って来たときはどうか、男性一人や男性同士ではどうかなど。これはアメリカの話ですが、圧倒的に女性の滞在時間が長いのが分かりました。
ところが、女性と男性がペアで買い物をしに来ると、買い物時間はだいたい短くなります。男性の方が我慢しきれなくなって、早く帰ろうとするからです。
この場合、店として考えなければいけないのは、男性が外へ出ていきたくなるのを防ぐことです。そのために最近の店では、女性が洋服を買う近くにちょっとしたゲームや趣味のコーナーをつくり、男性が時間をつぶせるようにしています。こういうものをわざわざ作って、女性の滞在時間を増やしているのです。滞在時間が増えれば買い物額が増えるのは、よく言われている話です。
パコ・アンダーヒルの本にはいろいろな事例が書いてあるので、面白く読めます。行動経済学とは少し違うかもしれませんが、人間の癖のようなものをもう一度きちんと見直していくことは、非常に重要だろうと思います。
●行動経済学の中で注目されている「群れの動機」
行動経済学的な議論の中で今、私が非常に注目している分野があります。ある経済学者が研究しているのですが、例えば省エネについての意識を問う手法です。家で電気をこまめに消したり、エアコンの設定温度を1度上下するように、省エネを実践する人はたくさんいます。彼らに「なぜ、省エネをするのか?」という質問をぶつけてみるのです。
理由の候補として、一つ目は「節電すれば、それだけ電力料金が安くなる。だからお金の節約にもなる」。これをわれわれは「金銭的動機」、あるいは「経済的動機」と呼びます。
二つ目の理由は「省エネをすればCO2の排出を抑えられる。社会全体がそうなれば、地球気候変動問題への、ある種の貢献もできるのではないか」ということで、これを「社会的...