グローバル競争のメルクマール~中国がEV分野を先導~
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
電気自動車をめぐる自動車業界の動向は?
グローバル競争のメルクマール~中国がEV分野を先導~
伊藤元重(東京大学名誉教授)
東京大学名誉教授で学習院大学国際社会科学部教授の伊藤元重氏が、電気自動車(EV)をめぐる自動車産業の動向と、それに関する中国の政策に焦点を当てて解説する。パリ協定で定められたCO2削減の目標を達成すべく、日本のメーカーもEV生産への切り替えは必須だが、伊藤氏はこの状況下で最も効果的な動きを取ったのが中国だと指摘する。かつての輸出基地、有望市場からグローバル競争の拠点に変貌した中国の動きを追ってみる。
時間:11分25秒
収録日:2018年5月7日
追加日:2018年6月14日
≪全文≫

●COP21が示唆した日本自動車業界の行く末


 今日は電気自動車(EV)をめぐる自動車業界について、少し感想を交えてお話ししたいと思います。私がこのテーマに最初に関心を持ったのは2015年の暮れだったのですが、当時ちょうどフランスでCOP21というCO2削減に関する大きな国際会議が行われていて、パリ協定がほぼ締結に近いという状況でした。

 たまたまその時に都内のあるレストランで日本の大手自動車メーカーの幹部の方と食事をしたのですが、いきなり「伊藤さん、このCOP21というのは日本の自動車業界にどういう意味があるのか分かりますか」と振られたのです。今になってみれば、それに答えられなかったのは恥ずかしい話なのですが、ただその時点で私もあまり問題意識を持っていなかったものですから、さほど適切に反応しませんでした。

 しかし、彼いわく「その取り決めに従うと、2050年までに現在に比べてCO2を80パーセント削減するというのが日本の相場感になる。おそらく2050年までに日本の自動車業界はまだこれから拡大して、仮に今の2倍程度の生産量で毎年やっていくと、1台当たり90パーセント削減しないとこの基準は実現できない。これは要するに内燃機関であるガソリンやディーゼルでは実現できない。ハイブリッドでも難しいだろう。したがって、新規に作る車のほとんどはEV。バッテリー型なのかあるいは水素燃料自動車なのか、一部バイオ燃料ということがあるかもしれないが、とにかくEVに行くだろう」ということでした。要するに、言い替えればガソリン車を作っている限り行き止まりなのだということを、そのトップの方は言っていたわけです。


●新技術に投資しないと企業は生き残れない


 この話を聞いた時に大変なことなのだなと思いました。なぜかというと、当時日本の多くの産業界は、自動車に限らず投資に対して非常に消極的だったからです。特に国内投資は消極的でした。それは皆さんの相場感として、今は足下で景気は多少良くなっているかもしれないけれども、またいずれ低迷してくる。あるいは高齢化によって人口減少が進んでいくかもしれない、ということがあったからで、今あまり積極的に投資するのは得策ではないと考える人が多かったように思います。

 ところが、今の自動車産業の話をすると、要するに投資をしない企業は生き残れないということを意味するのです。つまり、自動車の環境...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「政治と経済」でまず見るべき講義シリーズ
台湾有事を考える(1)中国の核心的利益と太平洋覇権構想
習近平政権の野望とそのカギを握る台湾の地理的条件
島田晴雄
為替レートから考える日本の競争力・購買力(1)為替レートと物の値段で見る円の価値
ビッグマック指数から考える実質為替レートと購買力平価
養田功一郎
緊急提言・社会保障改革(1)国民負担の軽減は実現するか
国民医療費の膨張と現役世代の巨額の「負担」
猪瀬直樹
お金の回し方…日本の死蔵マネー活用法(1)銀行がお金を生む仕組み
信用創造・預金創造とは?社会でお金が流通する仕組み
養田功一郎
戦争と暗殺~米国内戦の予兆と構造転換(1)内戦と組織動乱の構造
カーク暗殺事件、戦争省、ユダヤ問題…米国内戦構造が逆転
東秀敏
日本人が知らない自由主義の歴史~前編(1)そもそも「自由主義」とは何か
消極的自由と積極的自由?…なぜ自由主義がわかりづらいか
柿埜真吾

人気の講義ランキングTOP10
熟睡できる環境・習慣とは(2)酒、コーヒー、ブルーライトは悪者か
ブルーライトは悪者か?近年分かった「第3の眼」との関係
西野精治
エネルギーと医学から考える空海が拓く未来(1)サイバー・フィジカル融合と心身一如
なぜ空海が現代社会に重要か――新しい社会の創造のために
鎌田東二
内側から見たアメリカと日本(7)ジャパン・アズ・ナンバーワンの弊害
ジャパン・アズ・ナンバーワンで満足!?学ばない日本の弊害
島田晴雄
歴史の探り方、活かし方(6)江戸時代の藩校レベルを分析
史料読解法…江戸時代の「全国の藩校ランキング」を探る
中村彰彦
習近平―その政治の「核心」とは何か?(1)習近平政権の特徴
習近平への権力集中…習近平思想と中国の夢と強国強軍
小原雅博
経験学習を促すリーダーシップ(1)経験学習の基本
成長を促す「3つの経験」とは?経験学習の基本を学ぶ
松尾睦
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(1)「スキーマ」問題と認知の仕組み
なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み
今井むつみ
エンタテインメントビジネスと人的資本経営(1)ソニー流の多角化経営の真髄
ソニー流「多角化経営」と「人的資本経営」の成功法とは?
水野道訓
「重要思考」で考え、伝え、聴き、議論する(1)「重要思考」のエッセンス
重要思考とは?「一瞬で大切なことを伝える技術」を学ぶ
三谷宏治
「集権と分権」から考える日本の核心(1)日本の国家モデルと公の概念
日本は集権的か分権的か…地理と歴史が作る人間の性質とは
片山杜秀