●キャッシュレス化と日本の状況
今回は、キャッシュレス化という動きがこれからどうなっていくのか、お話ししたいと思います。
ご存じの方も多いと思いますが、特に中国などにおいて、キャッシュレス化の動きがかなり進んでいます。中国では、国の中でほとんど現金が使われない、そういった状況になってきているといわれています。このような動きは、中国だけではなく、北欧諸国でも進んでいます。いわゆる「QRコード決済」と呼ばれる、QRコードを使って支払いをして、現金を直接手渡ししないといった動きが、世界中の多くの国で広がっています。
日本は、比較的現金が好まれる国だといわれていて、こういったキャッシュレス化の動きはまだあまり進んでいません。日本は今でも、日本銀行券やコインを使って、多くの人が現金支払いをしているという状況です。しかし、この状況がやはり、世界の趨勢に従って大きく変わってくるのではないかといわれています。それが、キャッシュレス化をめぐる現在の動きです。
●キャッシュレス化は決済に関わる社会的な費用の削減につながる
なぜこのようなキャッシュレス化の動きをめぐる議論が出てきているのか。その裏側にあるのがやはり、現金を取り扱うことの社会的な費用がずいぶん大きいということです。ユーザーにとってはもちろん、現金で財布がかさばったり、硬貨が重かったり、そういう問題もあります。
現金の取り扱いに関しては、例えばATMに現金を入れる作業だとか、あるいは各お店でお釣りが不足しないように両替をしておくなど、そういったことに実はかなり手間がかかっています。そこで、例えば、ネット上で決済がなされる、あるいは現金を使わないさまざまな形で決済がなされることによって、社会的な費用が相当低くなるのではないかといわれています。そういった背景からも、日本でもキャッシュレス化を進められないだろうかという議論が今、起こっています。
●さまざまな形態のキャッシュレス化が存在する
ここで大事なポイントは、このキャッシュレス化には実はさまざまな形があるということです。例えば、中国ではQRコード決済がすごく普及したので、キャッシュレス化といえば、QRコード決済が比較的注目されていますが、今でも使われているものとしては、クレジットカードの支払いも、実は広い意味でのキャッシュレス化の一形態です。それから、スイカやPASMOなど鉄道を使う際のICカードがあります。これらも、前払いはしていますけれども、利用することによりキャッシュレスで鉄道に乗っていることになります。
そういう意味で、キャッシュレス化はすでにある程度進んでいるのですが、そこにはさまざまな形があるという状況を踏まえることが、重要なポイントになるのです。例えば、クレジットカードを使う場合、また銀行口座からそのまま引き落とされるような形でキャッシュレス化する場合、あるいは、銀行口座やクレジットカードを経由せずに、例えばポイントなどを使って支払いをする場合など、キャッシュレス化にはさまざまな形があります。
このように、一言でキャッシュレス化といっても、個人が現金を使わないで支払いをする点では共通していますが、その裏側で、どんな金融機関、あるいはどんな経済主体が関わるかについては、さまざまなパターンが存在するということです。
●キャッシュレス化によって、大きなビジネスチャンスが生まれる
そして、それぞれのパターンによって、例えば金融機関が大きなビジネスチャンスを獲得したり、あるいはクレジットカード会社が大きなチャンスを獲得したりします。もっといえば、クレジットカード会社でも金融機関でもない事業会社が、そこで大きなチャンスを獲得するなど、さまざまな可能性があるわけです。
つまり、今キャッシュレス化が盛り上がっているのは、社会的な費用を大きく削減しようという、冒頭の方で話した動きがあるのと同時に、実はこのキャッシュレス化が、さまざまな企業や金融機関にとって大きなビジネスチャンスになるという背景があるからです。
そこで、このビジネスチャンスをできる限り生かそうとして、みんなが競争を始めています。何とか自分たちの決済サービスを使ってもらうというパターンで、キャッシュレス化にもっていくことはできないか、そういった動きが広がっているのです。これが、キャッシュレス化が注目されているポイントだと思います。
そうすると、社会全体、個人、あるいはビジネスの観点から、どのようなパターンでのキャッシュレス化が世の中にとって最もプラスになるのか、それを考える必要があります。あるいは、どのようなパターンのキャッシュレス化が起こると、単純な利便性以上に、社会にどんなインパクトがあるのか、こういったことに注目する必要が...