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キャッシュレス化の背景にあるビジネスチャンスとは?

キャッシュレス化のこれから~ビジネスチャンスとその課題

柳川範之
東京大学大学院経済学研究科・経済学部 教授
情報・テキスト
近年、現金を用いずに取引を行うキャッシュレスに関する議論が盛り上がっている。事業者の側にとっても、キャッシュレス化は大きなビジネスチャンスとなり得るが、そこにはさまざまな課題がある。利用者と事業者、両面からキャッシュレス化の現状と今後について解説する。
時間:12:58
収録日:2019/02/20
追加日:2019/05/02
≪全文≫

●キャッシュレス化の背景には大きなビジネスチャンスへの可能性がある


 キャッシュレスの最近の進展ということでお話をしたいと思います。

 現金を使わないで取引をするという、いわゆるキャッシュレスへの動きは、近年非常に盛り上がってきていて、マスコミでも取り上げられるようになってきた大きな動きだと思います。その裏側にあるのは、現金を使って支払いをしようとすると、小銭を出すのが大変だし、財布は重くなるし、あるいは場合によるとATMで引き出してこないといけないということで、消費者側からすると取引が面倒だという面もあります。

 一方、事業者の側にとっても、現金の取り扱いはとても大変で、お釣りを切らさないようにすることや、仕事が終わった後にたまった現金をどのような形で安全なところに持って行くのかも含めて、かなりコストがかかるという面があります。あるいは、一般の銀行や中央銀行にとっても、現金の取り扱いにはかなりコストがかかるということもあります。ということで、キャッシュレスへの動きには、経済全体としては現金を減らしていった方が、コストがあまりかからない、より効率的な社会になるという、大きな役割があります。なります。

 また、その一方で、単純にコストが下がるというだけではなく、キャッシュレス化によって決済を担っていくことに、非常に大きなビジネスチャンスがあるのではないかといろいろな会社が思い始めています。「なんとかペイ」と呼ばれるタイプのものなど、さまざまなキャッシュレスの手段を、多くの企業が提供するようになってきているというのが今、起きている大きな変化だと思います。これだけさまざまな大きな企業がそこに参入しているのは、かなり魅力的なビジネスチャンスがあるからだと思います。

 なぜ魅力的なビジネスチャンスがあるのかというと、決済に関わる、支払いに関わるところで、データが集められるからです。そのデータを使って何かビジネスをする、あるいはよりきめ細かな情報提供をすることができれば、ここに将来の発展性が随分あるのではないかと多くの人が思っているのでしょう。もちろん、決済に関わるデータは個人情報に関わるものが多いので、その保護をきっちりした形でやらなければいけません。よって、個人情報をきっちり保護した形でデータを集めていくことに、非常に大きな意味があるのではないかということで、いろいろな会社がキャッシュレスに関するビジネスに参入しているのだと思います。


●キャッシュレスの規格をめぐる競争


 ただ、この種の決済情報には、専門用語でいう「規模の経済性」があって、よりたくさんの情報を得た方が結果的に強くなる、という面があります。あるいは消費者、つまり利用者の側も、誰もが使っている支払い手段を使った方が便利です。例えば、他の人と割り勘をするときに便利だということです。これは、専門用語でいうところの「ネットワーク外部性」といわれますが、みんなと同じものをできるだけ使いたい、という側面があるということです。

 ですので、シェアを握ったところが、さらに大きなシェアを握る傾向があります。現状はいろいろな会社がそのサービスを提供しているわけですが、提供している側とすれば、できるだけ大きなシェアを握って、自分たちがキャッシュレスのスタンダードになるようにしたいということで競争を始めています。どちらかといえば、今事業者側からすると短期的に損をしても、利用者側からすればほとんどただのような形で決済手段を使うことができて、そうやってでも、できるだけシェアを増やしたい。このような競争をしていることが、今起きている一つの競争の側面になります。

 この競争の結果、どこか一社がスタンダードになるという形で落ち着いていくのか、あるいは群雄割拠のまま全体が進んでいくのかは、まだよく分からない状況です。全体のシステムからすれば、さまざまな規格、つまりさまざまな電子マネーや支払い手段が乱立しているというのは、社会的なコストがかかり、利用者にとって必ずしも利便性が高いものではありません。ですので、なんとか統一という方向に進んでいかないだろうかという面はありますが、競争の結果、一つの形にスムーズに統一されていくかどうかは今のところ見通せないので、将来どうなっていくかは予測が難しいということになります。

 もちろん、一つの方向性としては、話し合いによって何かの規格に統一していくことがあり得ると思いますが、やはり現状ではなかなかそのあたりの調整が難しい状況になっています。

 一つの側面としては、切磋琢磨することによって、より便利なサービスが現れてくる、より技術的に優れたものが出現する、という競争のメリットもあります。そのため、どの段階でどういう形で標準化していくのか、ある...
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