●軍事的なオプションがないとは言い切れない
質問 ユーロや中国、サウジアラビアが何とか安定するとなると、残すところは北朝鮮問題だということでしょうか。1年から1年半の間に核ができてしまうかもしれません。
白石 これから1年から1年半ぐらいの時間の枠組みの中で、何かを決めざるを得ないでしょうね。どういうオプションがあるのかは分かりませんが、軍事的なオプションがないとは、もう私は考えていません。確率は分かりませんが、少なくともレックス・ティラーソン国務長官やハーバート・マクマスター米大統領補佐官があらゆる選択肢を考慮していると言うからには、そうなのでしょう。彼らは絶対にうそは言いませんから。
アメリカ人というのは、彼らのレベルになると極めて合理的です。例えば仮に、北朝鮮に対する報復攻撃でどれぐらいの犠牲者が出るかということを考えてみましょう。北朝鮮が小型の核兵器をミサイルに付けてアメリカに発射できるということになれば、そのコストは比較になりません。したがって、やはりこれから1年から1年半ぐらいは本当に要注意です。
お分かりの通りユーロは小康状態でしょう。むしろ、次に危機が起きるとすれば、また4、5年のことではないでしょうか。結局、ヨーロッパは経済的にはパフォーマンスが良くありません。ですから、少し経済が上向きになったといっても、5年10年のスパンで見れば大したことはないでしょう。果たしてどのくらい所得が伸びるのか、特に中間層以下の所得がどれぐらい伸びるか、私は正直に言って疑問です。あれだけ移民を受け入れてきたのですから、もう一度ポピュリズム的なものが出てくる可能性も十分にあります。今は取りあえず一つの大きな危機が過ぎたという段階にすぎません。
中国は党大会を乗り切りましたが、基本的な方向を変えたわけではありません。かつての日本とよく似ていますが、雇用を重視し、そのためには経済の効率化をある程度まで犠牲にするということです。アクセルとブレーキの踏み具合が今後どうなるのかということは、見ておく必要があるでしょうが。
●世界の不確実性が非常に高まっている
白石 中国がなにか大きく変わるという印象はありませんが、ただし同時に東南アジアの動向にも注目しておくべきでしょう。
実は先日、GRIPS(政策研究大学院大学)で東南アジアに関わるセミナーを行いました。東南アジアの国から若手のトップクラスの研究者や、私と非常に仲のいいシンガポールの元外務次官などに来てもらって、話をしてもらいました。東南アジアを見ていてつくづく思うのは、やはり世界の不確実性が非常に高まっているということです。
一つには、ドナルド・トランプ大統領がこれから何をするのか分からないわけです。就任後1年たちました。国境を越えた資本移動の自由に手を付けないということは分かりました。しかし通商については、やはり様々な手を打ってきそうです。東南アジアの国々にとっては重要な問題で、貿易自由化の恩恵を多く受けていた国がひょっとしたら、ものすごくあおりを食うかもしれません。
さらに、ビジネスの世界自体も急速に変わりつつあります。プロダクションチェーンが拡大していく中で、どうやって自分の国にプロダクションチェーンを引き入れるのかという問題だけではありません。eコマースもはるかに普及していますし、中国もビッグデータのインフラ提供も始めています。日本も今後、始めることになるでしょう。
●テクノロジーリテラシーの差はもうない
白石 この1年間東南アジアを旅行していて、僕にとっては驚きでもあり納得したことでもあったのですが、テクノロジーのリテラシーについていえば、日本の人も中国の人も東南アジアの人ももはやほとんど違いはありません。特に高校生や大学生といった若い人たちの間では、ICTを使ってビジネスをするということは、どの国でも普通のことになっています。この意味でのテクノロジーリテラシーは、全く差がないのです。
そうなると、後はむしろアイデア勝負になるでしょう。規模の小さいビジネスが、いろんなところで今生まれつつあるという印象を持ちました。こうしたビジネスにとっては、政府の規制やインフラ上のボトルネックが問題です。各国政府がどれぐらいのスピード感でそこに対応していけるのかで、それぞれの国の経済のパフォーマンスも変われば、雇用状況も変わってくるでしょう。
●現行システムの機能不全から、強い指導者が出てきている
白石 このようにプラスとマイナスの両方の意味で、不確実性が増大しています。これが今、東南アジアのいたるところで、いわゆる強い指導者が出てきている理由ではないでしょうか。つまり、今までのような政治システムでは対応できない状況があり、官僚を押さえつけてそれにぱっと対応...