●民主主義は自由を守ることも抑圧することもある
山田宏です。今日は、民主主義の価値についてお話ししたいと思います。前回(参照:増税はなぜ問題なのか――貨幣と自由の関係論)は、自由が人類の歴史と共に広がってきたこと、人類の文明の発達が自由と密接に関係していること、そして自由の温床は経済的自由、特に私有財産が増える自由だというお話をしました。民主主義という制度も、実は自由を守るために生まれてきたのです。かつては王が重税などでさまざまな人の自由を奪っていました。それに対抗するために「マグナ・カルタ(イングランド国王の権限を制限した憲章)」が生まれ、民主主義がスタートしました。民主主義は本来、人々を重税から守るための政治制度、自由を守る手段なのです。
しかし、民主主義が常に自由を守ってきたかといえば、そうではありません。あのアドルフ・ヒトラーも、民主主義によって選ばれています。最後は、議会がヒトラーに全権を委任することを決めました。民主主義は、自由を守る手段にも、自由を抑圧する手段にもなるのです。両面を持っているのです。ナチズムのように抑圧の手段として民主主義を使った場合には、一気に自由が失われてしまい、多様性や自由な討論といった民主主義の基本が民主主義によって崩壊していきます。民主主義は自由を守ろうとする限りでは有効ですが、時に自由を抑圧し、多様性を消し、独裁を生むのです。このことにはよく注意しなければなりません。
●過去や未来に耳を澄ます「縦の民主主義」も必要だ
つまり、人々が一人1票を投票して、皆で政治家を決める体制だけでは危ういということです。私はこれを「横の民主主義」と呼んでいます。横の民主主義の危険性を排除するために、私は「縦の民主主義」も必要だと考えています。
縦の民主主義とは、今までこの国を築いてきた私たちの祖先、あるいはこれから生まれてくる私たちの子孫の意見を心の耳でよく聞き、彼らだったらどのように考えるのかを皆で意識することです。横の民主主義だけでは不十分です。縦の民主主義も踏まえて、初めて過去と未来の結節点にいる自分の生き方がはっきりしてくるのです。
経営においては、今の従業員の声だけでなく、その会社やお店の過去を築いてきた人々、自分たちの跡を継いで会社やお店を担っていく人々、会社やお店を大事にして下さるお得意様や消費者の...