●再生医療は、使用する幹細胞によって3つの種類に分けられる
ヒトの再生医療には、大きく分けて3つのものがあると、私は思っています。
1つ目は、胚性幹細胞(ES細胞)を使うものです。これは、受精した卵が発生をしている途中で、内部細胞塊というものを取り出して試験管の中で培養する、多能性の胚性幹細胞を用います。
2つ目は、iPS細胞を使うものです。これは、ヒトの皮膚などの体細胞を成体になった後から取り出し、京都大学・山中伸弥先生たちの研究による山中四因子というものを加えることによって、未分化細胞を作ります。
3つ目は、体の中にある体性幹細胞を使うものです。われわれの体の中には、骨髄だけではなく、脂肪細胞やその他も含めて、頭のてっぺんから足の先まで、さまざまな未分化細胞があります。そういった体性幹細胞を使う研究もあります。
●再生医療に本当に使える幹細胞はどのようなものか
現在の再生医療において、非常に多くのものが注目されていますが、再生医療に本当に使える細胞とはどういうものかということが重要です。
先ほどES細胞の話をしましたが、例えばES細胞からどのような臓器ができるかというと、熊本大学の西中村隆一先生たちの研究では、未分化細胞であるヒトのES細胞から、腎臓のもとになるものを作ることができました。西中村先生はアクチビンとレチノイン酸を加えることによって、最終的に腎臓を作りましたが、これは、われわれがカエルでやったことと原理的には同じやり方で、ヒトの腎臓ができたということです。
先ほど、私たちの体の中には、大人になった後でもたくさんの未分化細胞があると言いました。私は、これを使うことも今後の再生医療の1つの方向ではないかと思っています。
例えば、脳の細胞は18歳~20歳くらいまでどんどんと増えるけれども、その後には死滅するだけで増えないと、われわれはこれまで高校や大学などで習ってきました。ところが、現代科学で分かったのは、われわれの脳の中でも記憶に関わる海馬の細胞などは年老いても分裂しているということです。
このように、脳には年を取っても分裂する細胞が存在することが分かってきました。そうすると、大人の脳の中にもたくさんの未分化細胞があって、使えば使うほど、年を取っても記憶は活性化するということです。よく、年を取ったときには、「頭を使いなさい」「体を動かしなさい」あるいは「頭を刺激するためにいい音楽を聞きなさい」といったことが言われますが、まさにそのことを意味しており、これらは脳の中の細胞を活性化するという意味で重要だということです。
また、われわれの体の中にはいろいろな幹細胞があると先ほど述べましたが、私たちのグループは最近、「鼻嗅球」と呼ばれる鼻のところにある幹細胞を採取して培養し、そこから脳の中にあるいろいろな神経細胞を作っています。さらに、この鼻嗅球の幹細胞に「Wnt3」という別のファクターを加えることによって、インシュリンを分化する膵臓を作ることもできるようになりました。つまり、生物の持っている細胞の多能性というものを、ここでも知ることができるのです。
●再生医療の実用化に向け、今後の方向性を考えることが大事
現在では、再生医療においていろいろな幹細胞が使われていますが、私は、どういう方法でやっていくのか、今後の方向性を考えることが重要だと思っています。ただ、そのとき、費用のかかる再生医療をどこまでやればいいのか、といったことは十分に検討する必要があります。
私の考えでは、基本的に重要なのは本人の痛みや苦痛を和らげることで、それが一代限りのものであれば、ぜひとも必要となります。しかし、次の世代にまで影響するようなことについては、慎重に進めなければならないと思っています。
日本でも再生医療のことはいろいろと報じられていますが、実は日本の再生医療は、世界から見ると非常に取り残されています。世界では、間葉系幹細胞、あるいはわれわれの体の中にある未分化細胞を使った治療は、すでにたくさん始まっています。世界的にはそのように再生医療が進んでいるのですが、日本ではまだそれに関して商品化されたものは少ないのです。よって、メディアで報じられていることと現実との間には、私は大きなギャップがあると思っています。